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奈良初のJクラブを目指して。

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奈良に初のJクラブを―。昨年末にJFL昇格を決めた奈良クラブは、掲げる目標に向けて大きな一歩を踏み出した。昨季のホーム最終戦では、1600人を超えるサポーターが駆けつけた。この数字は、地域リーグのカテゴリーでは極めて異例といえる。
 
「夢づくり・町づくり・人づくり」をコンセプトに掲げるクラブの母体はNPO法人。
オーナー企業も、経営者も存在せず、FCバルセロナやアスレティック・ビルバオと同じく、クラブ運営に会員が携わるソシオ制度をとっている。
 
選手として、またクラブの広告塔“奈良劇場総支配人”として活躍する岡山一成は、横浜Fマリノスなど国内外10クラブを渡り歩いてきた。所属したクラブの昇格に導いていることから、『昇格請負人』と呼称されることも多い。岡山はクラブの魅力についてこう話す。
「正直、Jリーグでプレーしていた自分は地域リーグという存在を知らなかった。Jリーガーとして引退したかったということもあり、矢部GMに声をかけてもらった際も一度は断りました。ただ、松本山雅FCが地域リーグからJリーグに参入したことを知り、矢部さんを始めクラブの関係者の方の熱意を感じて、少しでも力になりたいと思いました。クラブはまだまだ課題が山積みで、改善していくところは多い。ただクラブの未来を、地域の方やサポーター、選手達で一緒に作っていけるという楽しさがあると思います。選手とサポーターの距離が近く、選手はサポーター全員の名前と顔が一致するレベルです。そういった意味で奈良クラブは“リアルサカつく”を体現できるクラブと言えるかもしれません。今期はJFLという経験したことがない舞台となりますが、個人としてはすべてのカテゴリーでの昇格を経験すべく、チームのために邁進したいです」

 
元日本代表の楢崎正剛、柳本啓成らを輩出した奈良育英高等など、名門校の存在はあるが全国的に見ると奈良県はまだまだサッカー不毛の地といえる。背景にあるのはJクラブがなく、プロを目指す優秀な選手が他県に流出しているのも要因に挙げられている。
ただ、企業の絶対数が少なく、プロスポーツクラブの運営が難しいという土壌があるのも事実だ。実際に県内のプロスポーツクラブは、バスケットクラブの「バンビシャス奈良」のみ。

クラブのGMを務める矢部次郎は、名古屋グランパス、サガン鳥栖などを経て2006年に奈良県に戻り、1年半県内のサッカー事情を見て回った。
「私自身が奈良出身ということもあり、現役の時から奈良にJクラブをという想いは強くありました。県内のサッカーに触れて感じたのが、子供達がトップカテゴリーで上を目指せる環境の必要性でした。子供達がJリーガーを目指すには、当然ですがクラブがないと実現できない。草サッカー同然の環境でしたが、Jリーグを目指すクラブづくりをスタートしました」

矢部は、クラブが町づくりの一端を担うためには、町と人と一緒にクラブが歩み続けることが重要と強調する。
「クラブの運営を考えると、強いチームであることは欠かせない要素です。ただ勝ち負け以上に、地域にとって何ができてどういった存在であるか、ということもクラブにとって非常に大切な意義となります。現状では、クラブを引退した選手が協力企業で正社員として雇用されたり、現役の選手の衣食住をサポートいただいたりと、良い関係性を築けています。奈良県出身以外の選手が、奈良に来て働いているケースも増えてきましたし、より多くの人に関わってもらえるためにも、J3を目指したい。私達もずっとうまくいってきたわけではありません。しかし、クラブのカラーが少しずつ奈良に浸透してきており、町の方に応援してもらえていることが、動員に繋がっていると思います。将来的な私の理想としては、下部組織でプレーする選手達が仮にプロに上がれなかった時、『奈良クラブの選手なら』と、雇用してもらえる存在であること。サッカーを通じて選手、地域社会を繋ぐ架け橋となれるようなクラブでありたいですね」

 
地域リーグやJFLのカテゴリーでプレーする選手達は、プロ契約を結んでいる絶対数は少ない。まず仕事ありきのサッカーというのが現状で、選手は練習時間・遠征などを理解してくれる職探しの必要がある。
奈良クラブの大きな特徴として、スポンサー企業や協力企業で働く選手が多いことが挙げられる。クラブの考え方としても、選手としての実力はもちろんだが、まず人間性ありきという選手選考を行うという。
 

奈良に根を張り50年以上の歴史を誇る丸産業は、クラブの選手を自社に迎え入れいている。同社で専務を勤める丸洋史は、クラブとの関係についてこう述懐する。
「もともと私自身、サッカーにほとんど関心がありませんでした。ごくたまに代表戦を見るくらいのもので。そんな時に矢部GMと会う機会がありました。地域活性の一環として奈良にJクラブを、という熱意を聞き力になれればと思いました。今では、練習試合にも足を運ぶ熱心なサポーターになりましたね」

また、同社で働く選手達の存在は大きな存在になっているという。
「去年に鶴見聡貴選手に当社に来てもらうことになり、今年も新たな選手に入社してもらう予定です。どんな時も明るく元気な姿勢で仕事に打ち込む鶴見選手は、会社のムードメーカー。コミュ二ケーションにも優れ、職場の雰囲気を明るくしてくれる存在で、今後にも期待しています。企業としては選手がJリーガーという夢を追うために、出来る限りのサポートを継続していきたいと思っています」
 

クラブのJFLでの歴史は、3月8日の鹿児島戦で幕を開ける。「地域におけるサッカーを核としたスポーツ文化の確立」というJリーグ百年構想の理念に沿ったクラブづくりを、奈良の地から体現する奈良クラブの今後の展望に注目して欲しい。

奈良クラブオフィシャルHP
http://naraclub.jp/