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サッカー文化の浸透

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11月22~24日、千葉県のゼットエーオリブリスタジアムにて、第38回全国地域サッカーリーグ決勝大会が行われた。全国地域サッカーリーグとは、9つの地域リーグを勝ち抜いたクラブの頂点を決める大会であり、上位チームには日本サッカーリーグ(JFL)への参入権が認められる。今年J1昇格を決めた松本山雅FCも、2009年に同大会の優勝からJFL、J2とステップを踏んでおり、Jリーグ参入を目指す上で登竜門となっている。


グループリーグを突破して、決勝リーグに駒を進めたのは4チーム。設立2006年と歴史は浅いながら、北信越リーグ3年連続優勝のサウルコス福井。大阪から第3のJリーグ入りを目指すFC大阪。奈良初のJリーグ参入を理念に掲げる奈良クラブ。2014年の大学日本一チームである流通経済大学サッカー部員で構成される、クラブ・ドラゴンズ。決勝当日は、各地域媒体や専門誌など20社を超えるメディア関係者、遠路はるばる応援に駆けつけた1000人近いサポーターが試合の動向を見守った。


今回の取材で、個人的に注目したのはサウルコス福井と、奈良クラブの2チーム。理由は奈良県と、福井県は日本サッカーリーグへの参入チームがなく、Jリーグが標榜する、地域におけるサッカーを核としたスポーツ文化の確立を目指す計画「Jリーグ100年構想」の浸透度を図るうえで、1つの指標となり得ると感じたからだ。
1試合目に行われたのは共に元Jリーガーが所属し、昇格の本命と目される前評判の高い奈良クラブ対FC大阪。奈良クラブの応援席、バックスタンドには『古都奈良』『昇格するのは俺達』といった巨大な横断幕が並ぶ。この試合が昇格への大一番と理解しているサポーター達は、試合を通して絶えず声を張りあげていた。試合は2対1でFC大阪のリードで進むが、後半終了間際にセットプレーから奈良クラブが同点に追いつき、この日1番の盛り上がりをみせる。PK戦にもつれた勝敗の行方は、奈良クラブに軍配が上がった。


2試合目は、クラブ・ドラゴンズ対サウルコス福井。サウルコス福井側のスタンドからは、グリーンデイの「マイノリティ」を原曲としたチャントが鳴り響く。ポゼッションのサウルコスに対して、前線の選手の身体能力の高さを活かしたクラブ・ドラゴンズのカウンターサッカーといった構図で試合は進む。一進一退の攻防が続く展開のなか、こちらも1対1のままPK戦に勝負の結果を委ねられ、クラブ・ドラゴンズが勝利した。


試合終了後、奈良クラブのサポーターは、バスに乗り込む選手達と写真撮影や談笑する姿が見えた。一方、サウルコスのサポーターは、選手達に「切り替えろ。明日がある」と温かい激励を飛ばす姿が印象的だった。選手とサポーターの距離の近さ、この辺りも地域リーグの魅力の1つだろう。

初日の勢いそのままに、奈良クラブは全勝し大会1位でJFL昇格を決め、サウルコス福井は4位で大会終えた。12月10日に開かれたJFL理事会の結果、奈良クラブは奈良初のJFL参入クラブとなり、サウルコス福井のJFL昇格は来年以降に持ち越しとなった。

少し話しは変わるが、地域リーグ決勝大会の取材中、昨年訪れたドイツでの風景が脳裏をよぎった。ドイツサッカーは世界でも有数の観客動員数で知られているが、それは下部リーグにしても同様だ。4部や5部リーグの試合でも、数千人の観客が訪れることも珍しくなく、練習環境や待遇面も世界有数だ。
試合を観戦していたサポーターに話しを聞いた際「ドイツ人の大半は応援するクラブを2つ持っている。1つはブンデス1部のクラブ。もう1つは自分の住む町の心のクラブだ」との言葉を聞いた。
歴史の違いもあり、ドイツとの単純な比較はできないが、サウルコス福井と奈良クラブのサポーターの熱のこもった応援はドイツで見た光景に通ずるものを感じさせた。今回惜しくも昇格を逃したサウルコス福井だが、サポーター達の姿を見て、いかに地域に根付いた存在であるかという一端を見た気がした。

最後になるが、地域リーグに所属する選手達の待遇について言及したい。
近年では、プロ契約を結ぶ選手も増えたが、アマチュア契約で仕事をしながらプレーする選手が大半を占めている。また、Jリーグを経て地域リーグでプレーする選手はいても、残念ながらその逆はほとんど聞かない。FC刈谷から、水戸ホーリーホックに加入した山﨑貴雅の例もあるが、これは極めて希少なケースだ。
以前Jリーグでプレーしたブラジル人選手に、日本とブラジルの違いを聞いた際にこんな答えが返ってきた。「それは選手に与えられるチャンスの数の差。ブラジルでは下部リーグで活躍して、トップリーグへの引き抜かれる機会は多く、スカウトも下部リーグにまで目を光らせている。予算に問題もあるので一概には言えないが、日本もカテゴリーを飛び越えて、J1でプレーする選手がどんどん出てきてもいい。そういったクラブの姿勢が競争力を生み、レベルの向上に繋がると思う」

Jリーグから都道府県リーグまでのリーグのピラミッド構造の中で、地域リーグの注目度が高まることは日本サッカー界にとって大きな財産となる。地域社会の中でのサッカーの在り方、その答えを紐解くうえで、地域リーグの存在は欠かすことができないピースであることは間違いない。