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感動よりも取材が優先

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 スポーツの現場で取材をしていると、監督や選手の涙を見ることがあります。主にテレビのようなメディアにとってみれば、これはまさに絶好のチャンス。五輪の涙などは繰り返し放映されて多くの人の心に刻まれます。誰でもいくつかはすぐに思い出すことができるのではないでしょうか。
 たしかにスポーツ選手の涙は感動的なのですが、ペンで取材をする立場としてはちょっと戸惑うことになります。
 ある競技の学生全国大会でのことです。優勝したチームの監督に取材しようと数人の記者が囲みました。ここでそれぞれの記者がどんなことを聞いていくかによって、取材の流れが変わってきます。チームの苦労話を聞きたいのか、指揮官の試合分析を聞きたいのか、単なる優勝の感想を聞きたいのか。取材する側の媒体によって、質問が変わってくるのです。自分の聞きたい方向へ話を持っていくのも記者の腕でもあるといえます。
そんなときにある記者が質問したのが「この優勝を誰に伝えたいですか?」というものでした。
 なんともベタな質問です。こちらが聞きたい方向とは正反対だったこともありますが、「なんてこと聞くんだい」と思ったことを覚えています。ところが次の瞬間、その監督はブワッと大粒の涙を流しながら、絞り出すようにこんなことを話し始めたのです。
「報告したいのは妻と子どもです…。この1年間、チームのことだけを考えてきて、休みもほとんどなく、なにもしてあげられませんでしたから…」
 まさに男泣きといった雰囲気でした。これを聞いて私は正直に感動しました。たしかにそれほどの練習を積んでこなければ優勝することはできない。それは全国大会のレベルの高さを証明することになります。その奥さんと子どもは今日は応援に来てくれているのか、などと続けて質問すれば話は膨らむかもしれません。
ですが私が感動したのは一瞬だけ。次の瞬間、これからどうやって冷静に試合を振り返ってもらえるような空気に戻そうか。はたしてそういう話になるだろうか…。そんなことが心配になってしまうのです。
 スポーツを観て感動したいのならテレビが一番なのではないかと思ってしまうのはそんなときです。スタンド観戦ではヒーローインタビュー的な選手の言葉しか聞けませんし、涙も見えません。テレビならそれを余すところなく伝えてくれるでしょう。取材をしていると監督や選手を醒めた目で見てしまいます。これが取材が上達しているからならありがたいのですが、感性がスレてしまっているのが原因にならないように気をつけなければならないと思うのです。