athlete knowledge

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先日行なわれたラグビーワールドカップで、南アフリカを倒した日本代表のプレーは見事の一言でした。日本のスポーツ史に残る出来事として、今後長く語り継がれていく勝利といって良いでしょう。そのこと自体は本当に素晴らしいと思います。

しかしながら、そこで「やはり、ラグビーW杯に向けて新国立競技場建設を間に合わせよう」というメディアが、一部かもしれませんがテレビを始め複数あることに閉口します。いったい、どの口がそんなことをいうのでしょうか? マスメディアを中心としたザハ下ろしによって、本来正当に行なわれたコンペティションによって選出されたザハ・ハディドが降ろされ、それが「英断」とまで言われた経緯は、すでに過去のこととなっているようです。実際はわずか2カ月前のことです。どれだけ忘れっぽい国民性、というよりもマスメディアの無責任体質に、シルバーウィークにも関わらず怒りを禁じえません。

7月23日に収録された記事において、大手施工会社勤務の「またろ」氏はこのように述べています。

http://athlete-knowledge.jp/reports/280
>新国立競技場建設には現時点で4カ月足りない/またろ( @mataroviola 一級建築士)
>またろ 報道によると、今政府が検討しているのは2016年2月着工ということですが、仮にその日程で着工できるのであれば間に合います。ただし、現時点(7月23日)から来年2月までに設計が終わるというのはほぼ不可能に近いです。

> 新国立競技場の設計に関しては、まず設計者が決まり基本原案が決まっている前提ですと、そこから設計が8カ月、確認・申請業務が4カ月。申請業務に関しては短縮できたとしても3カ月は必要でしょう。

>――つまり普通にやると11カ月は必要と。現時点で設計者も基本原案も決まっていないうえ、着工が来年2月としてもあと7カ月程度しかありません。今すぐ始めてもすでに4カ月足りないという状況なのですね?

>またろ そうですね、足りません。一体誰に話を聞いたの? という状況ですね。死に物狂いで体制を倍にしてやれ、と言われてできるのは設計工期を3分の2にするまでが限度です。どんなに人をつぎ込んでもコントロールができません。設計の8カ月を6カ月に短縮し、許認可関係は東京都に協力を求めて3カ月を2カ月に短縮にすることはなんとか可能かもしれません。

>――それでも8カ月。ものすごーーーく頑張って短縮しても、それでも1カ月足りないわけですね。

 
これが、2015年7月23日時点での状況でした。それから現状をいうと、9月21日の時点で公募型プロポーザルには大成建設、隈研吾氏&梓設計のチーム、2組目には竹中工務店・清水建設・大林組の三社連合&伊東豊雄氏、日本設計のグループという顔ぶれになりました。もちろんどちらになるか、未だに決まっていません。東京五輪に4カ月足りない、という状況から2カ月経過しました。単純計算で、半年足りなくなっている状況です。
 
ここで、ラグビーワールドカップ2019の日程を確認しておきましょう。2019年(平成31年)9月6日に開幕し、10月20日に決勝が行なわれる予定になっているわけですが、リハーサルも何もやらない、プレW杯的な試合も一切やらないという仮定をしたとしても、「さらに5カ月前倒しで着工せよ」と言っているに等しいわけです。
 
100%という言葉を軽々しく使うのはどうかと思いますが、ラグビーワールドカップ2019に新国立競技場建設は100%間に合わないという状況がすでにあるように私には思います。そういう状況に追い込んだものは様々な理由があり、そのことについてはアスリートナレッジでもかなりボリュームを割いて論じていますので、記事下部のリンクから飛んでいただければと思います。
 
ちなみにザハ・ハディドが正式に新国立競技場参加を断念した日、2015年9月18日のdezeen.comにおいて、ザハ・ハディドのコメントが紹介されています。
 
http://www.dezeen.com/2015/09/18/zaha-hadid-gives-up-tokyo-2020-olympic-stadium-competition/
>"They don't want a foreigner to build in Tokyo for a national stadium," Hadid told Dezeen. "On the other hand, they all have work abroad."

 
「彼らは、外国人に国立競技場を作ってほしくないと考えている」とすでに言われてしまっています。このような状況を招いたことが、はたして英断だったのかどうか。
 
見る人が見なくとも、日本はレイシズムの国であると、これだけ国際的に影響力のある人物に言わしめてしまったことは、今後国内外において様々な影響が出てくるのではないでしょうか。またそれ以前に、何度もコストカットの提案をし、優れたプレゼンテーション動画を遅きに失した感あったとはいえ多額のコスト(専門家の試算によると1000万円以上)をかけて作ったりと、最後まで新国立競技場への意欲を示したザハ・ハディド氏に対し、いつまでも「コストアップの元凶」といった捉え方をすることはもはや罪ではないでしょうか?
 
ちなみに、ザハ・ハディドが「アンビルドの女王」ではないことは、Wikipediaの英語版を見ればすぐに理解できると思います。下記は、「Built」が建設されたもの、「Not realised」が建設されなかったものです。こちらを見ると、1990年までは本当に多くのものがアンビルトなのですが、それ以降はほとんどのものが建設されています。

https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_works_by_Zaha_Hadid
 
ザハ批判にかますびしい人々は、「ソースがWikipediaかよ」と脊髄反射せず、Wikipediaの英語版すら見ないで「アンビルドの女王」というキャッチーなフレーズが独り歩きしてきたこと、そのフレーズに何ら疑問をもたずザハ批判を行なってきたことをまずは恥じるべきではないかと思います。

Photo:Jeremy Segrott