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人間の身体は様々な法則に則って動き、スムーズに動かすこともできれば、ブレーキとアクセルを同時に踏むようなおかしな動きになってしまうこともあります。そして、優れた選手は概して機能的でバランスの取れた動かし方ができていることが多いです。では、その“機能的”“バランスの取れた”“良い動き”とは、具体的に何なのでしょうか?

第一回となる今回は、サンフレッチェ広島のミハエル・ミキッチ選手について、フィジカルの専門家集団である“フィジカリズム”のアスレティックトレーナー・川端翔太さんに分析を依頼しました。7シーズンにわたって活躍し、J1連覇に貢献するなどチーム史上・Jリーグ史上に残る偉大な選手であるミキッチ選手、その動きの秘密とは?(取材日:2015年09月14日 構成:澤山大輔[アスリートナレッジ編集部])

■地面を撫でるような走り
――今回はサンフレッチェ広島で7シーズンに渡って活躍するサイドアタッカーであるミハエル・ミキッチ選手について、フィジカルの専門家としての分析をお願いします。最初に彼の動作を分析いただいて、どういう点が気になりましたか?

川端翔太(以下、川端) 私は専門が野球なのでミキッチ選手を見るのは初めてでしたが、今回分析してみていろいろ興味深い点が見つかりました。身体的特徴から順に述べていきますと、特別身長が高いわけでなく、日本人平均よりやや高いくらい。四肢が長く、体幹はそれほど太いようには見えません。従来のフィジカルの概念からすると、強いというような選手には見えません。表現に語弊はあるかもしれませんが、手足が長いこと以外は平均的な身体かなと思います。

――なるほど。確かにミキッチ選手は177センチ68キロ、日本人の平均身長より少し高いぐらいですね。彼の特長である走力という部分で、まずは走り方についてはいかがでしょうか?

川端 プレー動画を見たのですが、すぐに思ったのは「滑るように走る選手だな」ということです。

――どういうことでしょうか?

川端
つんのめるというようなことではなく、地面との抵抗がないような走り方ですね。アイススケートのリンクを滑っているような、と表現すればわかりやすいでしょうか。ミキッチ選手の走り方を見てみると、脚の回転が身体の前側でなく後ろ側で起こっていることがわかります。漫画的表現でいうと、よくある「逃げ足の速い人」の走り方がありますよね? あのイメージです。

――ああ、脚がうずまきで表現されるような(笑)。確かにミキッチ選手はすごく速いですし、漫画であの表現をされてもおかしくないと思いますが、実際にそういう動きになっているとは。

川端
これは、足の着地位置がほぼ身体の真下に来ていて、そこから後ろに脚を長く使うような走り方になっているということです。滑るような、地面との抵抗がない走り方の正体はこれですね。筋肉でいうと大腿四頭筋(ふとももの前側の筋肉)、前脛骨筋(すねの前側にある筋肉)など、スピードに対してブレーキをかける筋肉をほとんど使っていません。速く走る秘訣はこのあたりにあると思います。

――なるほど。“前側の筋肉はブレーキ”とはよく言われますが、ミキッチ選手もまたブレーキをうまく使わないような走り方になっているんですね。

川端
そうです。そして、このような特徴ある走り方を可能にしている要素は姿勢にあります。ボールを扱っているとき、ミキッチ選手の上半身に注目してみてください。みぞおちあたりにある背番号14、これが常に前を向いているんですね。他の選手はこの番号が下を向いてしまうことが多く見受けられますが、ミキッチ選手は常に前を向いているんです。

――体幹がアップライト(直立)になっているということですね。

川端
腰が立っている、仙骨が立っている姿勢が取れているということですね。これにより、腸腰筋という筋肉を上手に使うことができ、加速につながります。ミキッチ選手について過去の映像も幾つか見てみましたが、見たところ、若いころよりも年齢を重ねた現在のほうがより地面との抵抗が少ない、滑るような走り方ができているように見えますね。地面を蹴って走る、というよりは地面を撫でるような走り。重心移動がうまい選手といえます。

――なるほど。重心移動というフレーズは最近多く聞くようになってきましたが、やはり走り方のうまい選手に関しては重心移動もしっかりできているんですね。

■特徴的なボールの置き方
――それ以外のプレー面で、気になるポイントはありますか?

川端
クロスの上げ方が目につきましたね。ミキッチ選手がクロスを上げたあとの、身体の動きに注目してみてください。他の選手よりも、蹴った後に蹴り足方向に身体が流れていく、ステップを踏むように見えます。これもネガティブな意味ではなく、踏ん張らずに重心にボールをぶつけ、その流れで走り続けることができているからです。

――ボールに体重をスムーズに載せられている、ということですね。

川端
そうです。他の選手でよくあるのは、足の動きを大きく使ってクロスを上げるプレーです。しかしミキッチ選手は、蹴ってクロスを上げるというよりは、体重・重心をボールにぶつけるようにクロスをあげています。これにより、悪い体勢からでも強いボール、精度の高いボールを上げることができ、またそれによって読まれにくいのではないかとも推測できます。

――ああ、それはすごく思います。ミキッチ選手のクロスは、外から見ていると「あれっ、今の通るの?」というようなタイミングで上がってきます。ボールの質自体はものすごく精度が高いというわけではなくとも、DFが準備できないタイミングでフッと上げてくる印象があります。

川端
おそらく、ボールを置く位置も他の選手と違うのでしょう。他の選手が身体のより前側だとすると、ミキッチ選手は右のタッチラインを右側に見て、身体のより右側にボールを置いています。これによりボールが奪われにくく、また相手から隠すこともより容易で、かつその体勢からクロスを上げてくるのでタイミングが読みづらいのだと思いますこのようなプレーが可能なのもまず、仙骨が立っていて、重心から当てにいくからこそなんですね。

ただ、フィジカル的な課題もなくはありません。例えば走り方や重心移動はスムーズな反面、ひねる動作は苦手な印象を受けました。上半身と下半身でツイストする、上半身と下半身が別々の動作をする、これを“割れ”というのですが、そういう動きは苦手な印象です。

――どういうところでそう思われましたか?

川端
密集地帯、スペースの小さな局面での動きですね。そういうところでは、ターンの半径が大きく回っています。“割れ”の動きを使いこなせると、動きの半径が小さくターンできます。昔はトップ下の位置でプレーしていた選手だと思いますが、現在はサイドで固定されているのは、おそらくそういう部分がネックとなっているのかなと。

――なるほど、実際にミキッチ選手はそれほど中央に入ってプレーはしません。主に右サイドからペナルティエリアに斜めに侵入することはありますが、そこに居続けることはほとんどないですね。チームの決まり事、得意なプレーという部分はありますが、身体の動き方としても中央があまり得意でなさそうというのは感じます。

川端
なるほど。もし中央の密集地帯でより良いプレーを目指すのであれば、こうした動きを使いこなせると良いのではないかと思います。

<了>

Photo:Artur (RUS) Potosi