athlete knowledge

アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

■ ■ ■

守備機会が多いので目立ちましたが、アフガニスタン代表のGKオヴァイス・アジジ選手は決して悪いGKではなかったと思います。日本人のGKにないフィジカルの強さ、パワーを持っている選手です。以前、日本人GKで強さを持っているのは川島永嗣選手(無所属)、林卓人選手(広島)、秋元陽太選手(湘南)ぐらいだという話をしましたが、彼も身体が大きく、向こうの選手特有の強さを持っていると思います。

まず彼にとってファーストタッチのシーン。前半30秒、右サイド(日本左)からのCKを、ニアですらされ、中で森重真人選手に合わされたシーンです。正面から普通に飛んでくるよりも難しいプレーでしたが、ものすごく正確なキャッチをしていました。全くブレない、しっかりとしたキャッチングです。このシーンを見た時、「彼はすごく良いGKかもしれない」と感じました。

パワーがあるので、キックの飛距離もあるんです。軽々とセンターサークルを越えますし、あと10メートルぐらいで相手のぺナルティエリアというところまで蹴れていました。パントキックはそれほどうまくないですが他のキックの質は悪くなく、飛距離も出ていました。そういった部分は彼の良さではないかと思います。
 
前半19分、森重選手がロングフィードを出して酒井宏樹選手が折り返し、GKとDFの間で岡崎慎司選手が反応したシーン。ああいうシーンはGKが最も出る判断が難しく、勇気が必要になる局面です。物理的に相手にぶつかることを恐れず、顔を全くそむけることなく、ボールに対して反応していきました。判断自体も間違っていなかったし、勇気があるプレーでした。しかも、しっかりボールをキャッチしました。気持ちの部分でも強さを感じましたね。
 
後ほど解説しますが、6失点したあとにあった本田圭佑選手のFKを彼は見事に止めています。特に4失点目なんて、GKにとっては本当に拷問のよう、やってられないという失点だったと思います。そんな中、FKを止めようが止めまいが大勢に影響はないのに、気持ちを切らさず最後までやり通した。そういう部分には好印象を感じました。
 
■ ■ ■
まず1失点目、香川真司選手にミドルシュートを決められたシーン。ニアポストが、やや開いているように見えました。ボールが入った位置もそんなに厳しいところではなく、ゴールポストのやや内側だったように見えます。相手がボールを動かした時、GKはそれに釣られてポジショニングをずらします。香川選手が2タッチした際に、アジジ選手も動きすぎて、ポジショニングがずれてしまったのかもしれません。ここは仮説です。本当にそうだったかはあの映像ではちょっと確認しにくかったのですが、いずれにせよ香川のシュートはよかったですし、失点自体彼の責任とはいえないものでした。

前半26分、森重選手がミドルシュートを打って、目の前で変なバウンドをしてゴールバーに当たったシーンがあります。このシーンでも彼はしっかりと変化したボールを見て素早く手を出して反応しています。2失点目のシーンでも、1本目の至近距離からのヘディングは止めています。大きな身体ですが、反応も非常に速い選手だと思います。

2失点目は日本のヘディングをただ防いでいるだけでなく、意図的にボールを遠くに弾いていることに注目しました。人のいない位置に、大きく弾くことを意図的にやって、結果いい位置に弾けています。ただ、他の失点シーンもそうなんですがいかんせん味方がセカンドボールに反応しない。彼はGKの仕事を全うしているのですが、いかんせん援護がない。そういう状況になると、どうにもならないのかなと思います。
 
本田選手がギリギリで折り返して、最終的に森重選手に決められてしまうのですが、このシーンは、やや立ち上がりが遅れてしまっているのかなと思います。ちょっと「出るだろうな」と思ってボールを観てしまったというか。ただ、そこからすぐに反応し、セカンドボールに対しても止めに行っています。Twitterで「あそこはきちんと壁を作って止まっているのが正解」という意見があったのですが、それほどの時間はなく、物理的に森重選手に決められるまでに立ち上がって正しいポジショニングをとって壁を作るのは難しかったでしょう。精一杯の反応はしたと思います、僕はあの失点は責められないです。
 
試合を通してなのですが、アジジ選手はハイボールに対し何本もゴールエリアを飛び出して処理しています。パンチングしたシーンもありましたが、セカンドボールを詰められないよう中央ではなくサイドに弾くということもできていました。ハイボールに関してはノーミスだったと思います。日本に対して恐れを抱かず、大量失点しても自信を失わず、どんどん出て行ってなおノーミスというのは非常にポジティブな部分ではないでしょうか。
 
3失点目、香川選手に左足で決められたシーン。これも仕方ないといえば仕方ないところです、逆には倒れているのですがボールを蹴られるまでは反応を我慢できていました。もしあの角度でニアサイドに決められたなら責められる部分もありますが、ファーに決められているのです。これも、彼のミスというには酷だと思います。
 
4失点目に関しては、先ほどにも述べましたが拷問のようなものです。4失点ということ自体もそうだし、ペナルティエリア内で相手選手がフリーで3人も来ている。GKとしては「やってられない」というような失点です。が、その後も彼は集中を切らさず、最後までやり通したことを褒めたいと思います。
 
5失点目、これも非常に難しい失点です。DFにあたってコースが変わったボールを、岡崎選手に先に触られたという失点です。ポジショニングがずれても、致し方ないところです。シューターですら合わせるのが難しい局面なのですし、ここは合わせた岡崎選手を褒めるべきところかと思います。
 
そして6失点目ですが、グラウンダーのクロスに本田選手が反応して結果的にゴールになりました。このシーン、よく見るとアジジ選手はコースに入って止めに行こうとしたのですが、目の前にDFがいたことで最終的にその選手に当たって入ったような形になっています。これも、止めろというには酷な失点だと思います。
 
得点以上にハイライトになった部分としては、後半40分の本田圭佑選手のFKを止めたシーンです。試合後、本田選手のコメントを読むと「GKはコースを読んでいた、逆に蹴れば入ったかもしれない」という主旨のことを言っています。GKには「決められたら責められるコース」というのがありまして、FKに関してはファーサイド、壁がないほう。ここに蹴られたら、GKは絶対に止めないといけません。壁がないほうに決められたなら、中南米では袋叩きに遭います。
 
では、こちらに蹴らせないためにはどうするか? 答えは、若干ファーサイド寄りに立つこと。アフガニスタンのGKは、前半にあった吉田麻也選手の直接FKの際も、そういうポジショニングを取っています。キッカーから見ると、ボールサイドに5枚ほど立っていて、その壁の横、ファー側に少しスペースが空いているような状態になります。そこにGKが立っていたら、コースがないんですね。そのポジションどりをした状態で、GKがいるところに蹴ろうとする選手はあまりいません。吉田選手も本田選手も、ひょっとすると意図せざるところで相手GKにあえて壁の上を蹴らされた部分はあるのかもしれません。ちなみにメッシ選手もこういうケースでは巻いて壁を超えるシュートを蹴ってくることが多いですし、あえてこういうケースでGKが立つサイドに蹴ってくる選手は、ブレ球を蹴るクリスティアーノ・ロナウド選手などです。
 
GKからすると、まず絶対決められてはいけないファーサイドに蹴らせないようにして、壁を超えるように蹴らせる。そこにはきちんとした意図があるわけです。いずれにせよ、あのケースはたまたまなどではなく、「駆け引きをやった結果、アジジ選手が勝った」というケースだと思います。
 
今一度思い出して欲しいのですが、このキックを止めたシーンは6失点したあとなのです。後半ロスタイムにも本田選手がFKをGKとDFの間に難しいボールを蹴ったのですが、そのシーンでも誰にも当たらずそのまま彼の正面に来た。GKにとって、非常に反応しづらいボールでしたが、手ではなく脚で反応しています。反応自体も、とても速かったと思います。
 
きちんとした技術を持ち、キャッチングもハイボールへの対応もよく、どんなに失点しても最後まで彼自身の仕事をやり通す。6失点しても本田選手のFKを駆け引きして止める。パワーがあり、キックの飛距離もある。6失点したため、カンボジアのGKソウ・ヤティ選手ほど活躍は目立たなかったかもしれません。ただ、オヴァイス・アジジ選手は面白い選手であることは間違いないと思います。

<了>

Photo:Marcus Sümnick