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アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

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アフガニスタン戦でGKを務めた西川周作選手について、分析させていただきます。前回のカンボジア戦(3-0)よりも大差になりましたが、仕事をする機会はカンボジア戦より多かったですね。持ち味が出ていた部分もありましたが、非常に細かい部分、相手がそこを突いてこなかったことで大過なく終わったものの、気になった点が2つありました。それらの部分についてお話をさせてください。
 
その前に、前半8分のシーンを思い出してください。相手GKのキックに対し、ペナルティエリア内に転がってきたボールを西川選手が反応しなかった所で、ハリルホジッチ監督が出てきてすごく怒っているというシーンです。このシーンを取ってみても、GKの細かいプレーの一つ一つを、ハリルホジッチ監督はすごく見ていると思います。浦和レッズとの違いはわかりませんが、ハリルホジッチ監督からのプレッシャーを西川選手は強く感じているように思います。細かい所まで厳しい要求をする、そういう監督の下でプレーすることで西川選手も要求に応えようと必死にやっているのではないか、改めてそう感じました。
 
まず試合前の表情について、カンボジア戦で結果が出たということもあるのでしょうか、もちろん緊迫感を持った表情をしていたもののカンボジア戦前ほどの硬さは感じられなかったと思います。カンボジア戦よりも余裕があるというか、落ち着いた表情でした。それは一つポジティブな面として試合前には感じました。
 
声もよく出ていました。前半序盤に与えたFKに対し、しきりに大きな身振り手振り、強い口調で「ラインを下げるな」といったことを大きなリアクションで言っていました。後半、カウンターから相手FWと1対1になりかけたシーン(酒井宏樹選手がカバーして事なきを得た)では、戻ってきた酒井選手に対して手を叩いて褒めたり、あるいは相手がドリブルでカットインしてきたシーンではボールホルダーを見つつ中のDFに対しマークの確認を指示をしていました。
 
指示の内容自体が的確であることに加え、ボールを持ってシュートを打とうとしている相手がいるのに、その選手だけでなく中も観て指示も出せている。余裕や冷静さを感じました。良い意味で全体を観て、落ち着いているなと感じましたね。
 
これもカンボジア戦でお話しましたが、味方が良いプレーをした時はしっかり褒める。それも、大きなリアクションで褒める。厳しく言うべきところではしっかり厳しく言う。それも、大きなリアクションで。メリハリの効いた、最適なコーチングができていたように思います。それらの点も、非常にポジティブだったといえるのではないでしょうか。
 
それからハイボールの処理について。ハイボールに対して出なくてはいけない状況にあったときに東アジアカップもそうでしたが、誰も競っていないフリーの状態のハイボールに対してはほぼミスなく冷静に処理できていましたね。
 
ただ今回、2つ気になった部分の1つですが、前半22分のシーンです。相手のFKに対し西川選手が片手で処理するような形になり、キャッチできず、ボールを上に弾いて浮かせてしまいました。誰も詰めてこなかったことで事なきを得ましたが、ちょっと不安に思った部分です。カンボジア戦でもお話しましたが、西川選手はこの時もボールを蹴る前から2歩ぐらい前に出て「ハイボールに出るんだ!」という強い気持ちが非常に見えたんです。その感じから見て取れるのが、「自分はハイボールに弱くない、出て処理できるんだ」という気持ち、アピールを感じます。
 
このシーンに関しては、そのアピールへの気持ちが強すぎて、ボールの落下地点よりもちょっと前に入ってしまいましたよね。そのことにより、片手でかろうじて触ってああいう形になりました。アフガニスタンはセカンドボールを見ていなかったので失点には繋がりませんでしたが、もっと手強い相手ならどうなったでしょうか? 冷静な部分はありつつも、そういうアピールの気持ちが強すぎるときは、西川選手にかぎらずその1回の判断ミスでやられてしまうということがあります。このプレーのあと、そういうケースが出ないかなと心配はしていましたが、今回の試合に関しては出ませんでした。
 
「よほど変なボールじゃないかぎり、出よう」と決めていたようにも見えました。東アジアカップではそういう部分が全くなかっただけに、余計にそういう部分が見えるんですね。なのでアジアの強豪であるイランとの親善試合、グループでは他国よりも強いシリアとの試合でも同じように出ていくのか、という部分は個人的に興味深く考えています。
 
あくまで個人的な意見ですが、私は西川選手に関してはあまり飛び出さないほうが良いと思います。アフガニスタンはそこを突いてこなかったですが、もっと難しい相手になったとき、そこでミスが発生した結果1失点する可能性は大いにあります。西川選手はあまり上背がなく、ハイボールへの対応が急激に伸びるかというと難しいと思います。
 
2006年ドイツW杯・オーストラリア戦の終盤、当時の正GKだった川口能活選手が相手のロングスローに対して強引に出て行ったものの、処理をミスしたことで失点につながったシーンがありました。あの試合の川口選手は多くのシュートを止めており、「今日は何でも止められる」と思って飛び出してしまったのではないかと推測します。川口選手もどちらかというと身長が高くなく、ハイボールの処理も得意ではないのに、無理して出てしまった結果やられてしまった。飛び出さないリスクももちろんありますが、得意でないプレーを無理してやる方がもっと大きなリスクがあるので、やらない方が良いと思います。これは、あくまで個人的な意見です。
 
続いて、2つ目の気になった部分です。時間は前後しますが、後半34分のプレーを思い出してください。正面から相手11番の直接FKがあって、キャッチに行ったシーンです。あまり強いボールではなく、顔の前でキャッチするオーバーハンドキャッチで処理しにいったところ、うまくキャッチできず一度地面に落としてしまいました。カンボジア戦でも一度、意図的に落としたシーンありましたが、このシーンはそれとは異なり西川選手は「キャッチをする」という判断をしたにも関わらずうまく処理できなかったのです。相手が詰めていなくて何事もなく流れたシーンですが、もっと強い相手になったときどうなるかという部分はちょっと心配ですね。相手のレベルが上がって、もっと速くて重いシュートが飛んできた時どうなるか。細かい部分かもしれないですが、不安を感じた部分ではあります。
 
実は日本代表の練習の中でも、同様のシーンがありました。日本代表のGKコーチや監督は、試合だけでなく、練習の中からそういう部分をチェックしているはずです。よく「西川選手には代表の経験が少ない、経験を積めば伸びる」といった意見を聞きます。確かに経験が少なく、経験を積んでいくことで伸びる部分はあると思います。しかしそれは「コンスタントに今もっている力を出せるようになる」ということであって、西川選手に不足している部分……例えばハイボール処理などは身長という練習ではどうにもならない先天的なものも影響してくるので、そういう部分が伸びるかというとそれは難しいかもしれません。
 
後半21分、これは良かったプレーですが相手の左サイドからのFKに対してキャッチして、前線にスローイングでカウンターに繋がったシーンです。このシーンは非常に良かったと思います。走っている味方をよく見ていましたし、かつ味方のスピードを全く殺さないボールを投げています。もう少しゆるいボールだったり、後方に少しでもズレていたならカウンターが発動できなくなったりするのですが、スピードを計算して殺さないように投げている。これは非常に良いプレーでした。キックではないですが、フィードという西川選手の武器でカウンターまで1本つなげたプレーでした。
 
もう1つ、後半32分ごろのシーン。味方が強めのバックパスを送ってきて、それに対して相手FWがプレッシャーをかけに来ている局面ですが、無理をせずタッチラインに蹴り出しました。前半の、ハイボールに対し飛び出したシーンのような無理なプレーはせず、冷静にタッチラインに蹴り出しています。Jリーグでは、こういう状況でさばくシーンを見ていたので、このケースでは「ミスだ」と思った人がいたかもしれません。が、僕は非常に良い判断だと思いました。自分の最大の武器である足元の技術をアピールしたい気持ちを抑え、失点しないためにはどうすればいいかを考えた、正しい判断ができていたと思います。
 
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タイトルにも書きましたが、西川選手の足元の技術について。彼の足元の技術は非常にうまいと言われますし、ワールドクラスと評価する声もあります。しかし私は、あくまで代表でのプレーを見る限りですが、ワールドクラスと呼ぶにはもう少し段階を踏む必要があるのではないかと思います。
 
例えば後半34分、パントキックから武藤嘉紀選手に出すシーンがありました。しっかり武藤選手の位置を見て、タイミングを合わせて蹴ったにも関わらず、ボールは直接ラインを割ってしまっています。ワールドクラスの足元の技術を持つGKは、こういう部分は合わせてくると思います。
 
もちろん、西川選手が高い技術を持っているGKなのは間違いありません。例えば59分、エリア外から来たバックパスを足元で扱ったシーンです。目の前でショートバウンドしたボールを、腿と胸を使ってコントロールし、ワンタッチで右サイドに出しました。しっかりとDFラインの裏をカバーしつつ、難しいボールでもコントロールしてさばける持ち味は出ていたと思います。しかし、このシーンだけを見ると、同じプレーを川島選手ができないかというとそんなことはないと思います。
 
ワールドクラスの足元の技術を持つGKでは、アルゼンチンのボカ・ジュニアーズにいたコロンビア代表GKオスカル・コルドバ選手を思い出します。トヨタカップでレアル・マドリードと対戦した時に国立競技場に見に行きましたが、ピンポイントでライナー性のボールを、左右両足で合わせていることに驚きました。キックの飛距離も出ますし、センターサークルをプレースキックでもパントキックでも軽々と超えてくる。キックの精度が高い、うまいというのはコルドバ選手のレベルではないかなと個人的に思います。しかも、彼はそれをレアル・マドリード相手にやるわけです。コルドバ選手もミスが全くない選手ではもちろんないですが、世界的なGKの足技というのはそれぐらいのレベルだと思います。また同じボカ・ジュニアーズのアルゼンチン代表GKロベルト・アボンダンシエリの足下の技術もワールドクラスでした。

あるいはパラグアイのGKチラベルトも、キックで局面を変えるシーンが何度もありました。武藤選手へのキックにしても、たった1回のことですが、あの1回のシーンでバシッと合わせられればハリルホジッチへのアピールになったのではないかなと思います。Jリーグでそういうプレーができていないということではなく、代表の少ないチャンスでそれができるかできないか。そういうことだと思います。
 
Jリーグのピッチは世界でも本当に素晴らしく、じゅうたんのように整っています。しかし例えばロンドン五輪での3位決定戦、ピッチはボロボロでした。Jリーグほどの良いピッチでない場所でも発揮できるなら、その技術は本物といえるのではないかと思います。例えば中南米の選手は小さな頃からボロボロのピッチでプレーしているので慣れており、ピッチ状態に左右されず高い技術を発揮できます。
 
西川選手について、直近で言えば東アジアカップ2試合、ワールドカップ予選2試合を見た印象では、西川選手が川島選手と比べて足元の技術が“明らかに”優っていると感じるシーンは残念ながらありませんでした。むしろ、西川選手が蹴ったボールがそのまま相手選手に渡ってしまうシーンも何度かありました。またバックパスの処理をミスし、あわや相手にボールを奪われそうになるシーンもありました。キックが武器のGKは、そういうシーンがあってはいけないと思います。
 
やはり、日本には「全盛期」の川島選手を超えるGKが出てくる必要があると思います。西川選手についていろいろ指摘したのも、アジアで勝つだけでなく、ワールドカップで勝つためにはそのレベルの技術を求める必要があるからです。アジアで勝つだけならば、アフガニスタン戦でもカンボジア戦でも「西川選手は良かった」で収めて良いと思います。今後も、西川選手のプレーの発展に期待しつつ、GKに関する議論が活発になって深まっていくことを期待しています。
 
<了>

Photo:Ronnie Macdonald