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相手のやり方をよく分析し、泣き所をつかみ、自分たちの強みを敵の弱みにぶつけていく……ハリルホジッチ監督指揮下のアフガニスタン代表戦は、カンボジア代表戦に続いて、そういった戦術的な成長を着実に遂げつつあることを示す試合となりました。

■アフガニスタン代表の狙い
自陣にタックルラインを引き、中央に絞ったゾーンでセットしてから、自陣に侵入してきた相手をマンマークで捕まえる。そこから、主に日本代表の左SBの裏、周囲を使ってカウンターを仕掛ける。アフガニスタン代表は、そういう狙いを仕込んだ442でディフェンス・オフェンスを構築していました。そのメカニズムを、以下もう少し詳述します。
 
2人のFWはこちらのDMF(山口蛍、長谷部誠)をマークし、CBは捨てる。サイドに出させたところをSHとSBに対応させ、DMFをヘルプにつけてサイドでの閉塞を狙う。サイドを突破されたら、SHはDFラインに吸収されることもいとわずマークについて行き、日本の強みであるSH(WG)に自由にプレーさせない。SHがDFラインまで落ちていくことによって生じるスペースは、ボールサイドのFWかDMFがケアする。DMFがサイドのヘルプに出てバイタルエリアが空く場合は、FWが落ちてケアをする(このため、自陣に引き切った時には451のような形になります)。
 
ボールを奪ったら、流れの中からいけるのであれば、ボールサイドのSBの裏を狙ってロングボールを送り込み、FWとSHを走らせる。セットした状態ならば、左SBの長友の裏、周囲を狙ってロングボールを送り込み、FWとSHを走らせ、競らせる。

■「敵のやり方」で必然的に生じるスペースを利用する
試合開始直後から、日本代表はアフガニスタン代表のやり方を逆用するような、戦術的な狙いを実行しはじめます。
 
ハリルホジッチ監督はまず、相手のやり方のうち二つの事象に着目していたと思われます。一つ目は、相手のファーストディフェンダーとなる2人のFWがこちらの2人DMFのマークに専念するため、こちらのCB(吉田麻也、森重真人)が完全にフリーになること。二つ目は、中央のゾーンを固めるセットを行ないそこからマンマークディフェンスを行なうため、初期状態ではサイドのスペースを捨てていること。この二つのポイントを基盤にして、日本代表はアフガニスタン代表を崩していきます。
 
まず、自由を得たCBから、あらかじめ解放されているワイドのスペースに張ったSH(WG)に執拗にロングボールを送り込みます。クリーンにボールが通れば、そこから一気に縦突破し、DFラインをスピーディに押し下げ素早くクロスを送り込む。それができずとも、アフガニスタンのやり方ではサイドにボールが出たらSBとSHを人につけて遅らせようとしてくるので、ワイドの高い位置にポイントを作る。そしてボールサイドのDMFをヘルプに引き出し、アフガニスタンのバイタルエリアにスペースを生み出す。

重要なのは、ハリルホジッチ監督の真の狙いは、ワイドのスペースを単に使うことではなく、それによって中央にスペースを生み出すことだということです。アフガニスタンの守備が基本的にゾーンセットからのマンマークであることが、ここで大きな意味を持ってきます。

■相手を、「相手のやり方」で動かせ

香川の先制点は特徴的なものでした。このシーンでは、アフガニスタンを敵陣に押し込み、守備ブロック全体を左ワイド(アフガニスタン側から見ると右ワイド)に振った状態から仕留めの局面が始まります。

SBはワイドに張った原口を見ています。長友は原口の後方内側に入り、そこでCBからのパスを待つ形。相手のSHはこの長友を見ています。この直前、アフガニスタンの2人のDMFは中央で香川を挟むようにマークしているのですが、山口がマーカーのFWを引き連れて縦に侵入してきたことで、ボールサイドのDMF(18番のアハマド・ハティフィー)が山口の動きをケアする必要に迫られました。
 
ここで、吉田からワイドにボールが振られます。長友→原口と渡る間に、原口のマークにSBがついているためにアフガニスタンのDFラインに生まれるスペース(CB~SB間)を突く動きを山口が見せます。マーカーのFWがそのまま山口についていくと共に、DMFハティフィーは山口が狙うスペースを閉じにサイドへ走ります。もう一枚のDMF(2番のアバシン・アリクヒル)はその動きに連動して動いてしまい、香川を見失います。
 
この時点で、アフガニスタンのバイタルエリアは香川を見失ったアリクヒルが一枚いるだけで、ほとんどがら空きになっていました。さらに、原口にボールを渡した長友がオーバーラップをかけたことで、本来のマーカーであるSHとSBが長友を重複してマークする瞬間が生じます。そしてこの時ボールホルダーである原口を見るマーカーがいなくなると同時に、中央に向かうドリブルのコースを阻止する選手もいなくなりました。
 
原口はこの自由を抜け目なく利用し、中央に一枚残ったアリクヒルに対し切れ込むと見せかけて視線を引きつけ、その前でフリーになっている香川にパス。アリクヒルは香川に寄せますが、このタイミングではすでにアクションの主導権は香川にあり。香川らしい反転トラップで出し抜かれ、ミドルシュートを決められました。
 
ここで、アフガニスタンは自分たちのやり方でしっかりと日本の選手をマークし、見ておきたいエリアを見ることができています。しかし、日本代表は彼らのその動き、約束事を遂行することで生じる状況を自分たちの戦術的なプラン(CBからワイドのスペースを狙う)と動き(マンマークDFを逆用する動き)の組み合わせで見事に攻略しています。先制点の後も、この基本線……相手のやり方で必然的に生じるスペース、状況を使って攻める……を淡々と繰り返して主導権を握り続け、大勝を収めました。

■日本が狙っていたその他の重要なディティール

この試合で、日本代表は中央のDMFや中央に集めた二列目のアタッカーを経由した攻撃をほとんど行なっていません。ほとんどが構造上フリーとなるCBからのワイドへのロングフィード、SB~SHから直接外側を通していくビルドアップによる攻撃でした。
 
先述の通り、そこからスピードアップしたサイド攻撃~クロスだけでなく、ワイドにポイントを作りマンマーキングを逆手にとって相手を動かし、中央にスペースを生み出し、そこを使って仕留めるというのがこの試合におけるハリルホジッチ戦略の要諦です。
 
その戦略が、実際のピッチでいかなる形で狙われ・機能したかは香川の先制点を生んだ流れの確認からも明らかですが、試合をつぶさに検分していると、その戦略を機能させる基礎となったであろうあるディティールが目に付きます。それは、マンマークDFの代償として自陣のそこここに生まれるスペースをケアしながら自らのマークも見ておく、というタスクを負うDMFコンビのプレー上の問題点……一度動いた後のリセット(本来ケアしなければならないエリアへの再ポジショニング)が非常にルーズだという点です。
 
ハリルホジッチ監督とそのスタッフは、おそらくこのルーズさゆえに、徹底して外側を使った攻撃、ワイドのポイントからのアタッキングムーブでDMFを動かし、アフガニスタン陣の中央部に大穴を空けることができると確信したのではないでしょうか。

ハリルホジッチ監督の下で、日本代表は非常に戦術的なチームに変貌しつつあります。

■今後注視したいこと

チーム作りにおいて、いよいよ確かな進捗を見せ始めている現時点でのハリルホジッチ日本代表。その行く末をめぐって注視したい、短期的・長期的な諸点に触れて、この稿を終えたいと思います。

まずは短期的に注視したい点。

現状の進捗はあくまで攻撃面に限ったものといえます。2次予選これまでの試合では、守備面での対応は比較的容易で、「相手のやり方を分析し尽くしたアウトプットで守り切る」必要はなく、そういった状況もほとんどありませんでした。来るシリア戦では、そのような局面が現れるはずです。そこで、どんなものを見せてくれるか。相手のやり方を、攻守両面で的確に打ち抜くようなサッカーができるか。
 
長期的には、以下注視していきたいところです。
 
ここ数試合、日本代表は相手の戦術的なチョークポイントをあぶり出し、そこをソリッドに突き、突き続けるハリルホジッチ監督らしいサッカーができるようになっています。ベタ引きの相手でも、相手がベタ引きであるからこそ得られるスペース、弱みを論理的に突いて崩すことができているのです。これは、これまでの日本代表のこのレベルでの試合ではなかなか見られなかった現象です。2次予選・最終予選のレベルであれば、テクニックとスピードとコンビネーションを生かした自分たち主導のパスサッカーで十分に勝利することができていましたから。
 
本大会ではそのようなやり方で主導権は握れない、ならばどうするか? 予選のチームコンセプトでそのままぶつかるのか? 予選用と本戦用、異なるチームを作るのか? それで本戦を勝ち抜くクオリティが得られるのか? というのが日本代表の悩みの一つでありました。けれども、相手のやり方に応じた弱点をえぐりだし、相手の力に応じた弱みの突き方で戦う、というコンセプトを確立し、「コンセプトは一つ、アウトプットは相手に応じて」というチームを得ることができれば、ひょっとしたらその問題の解決が成るかもしれません。
 
いずれにせよ、足踏みをしていたようにみえた日本代表が、選手たちも語っているようにカンボジア戦・アフガニスタン戦でスタートラインについたことは確かです。大いに期待しつつ、シリア戦を待ちたいと思います。
 
<了>
 
Photo:ResoluteSupportMedia