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素人目にはほとんど仕事がなかったように見える試合であっても、GKの専門家の視点から見ると、非常に多くの評価ポイントがあるのだと理解できます。極めて示唆に富む内容だと思います、早速ご覧ください。(取材・文 澤山大輔[アスリートナレッジ編集部])

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カンボジア戦の西川周作選手ですが、脚でボールを扱ったり手でボールを触るシーンは、全部数えても10回あったかなかったかだと思います。シュートを処理したのは、前半34分、FKをクチ・ソクンペアク選手に頭で合わせられたシーンぐらいだったのではないでしょうか。しかし、そういう中でもいろいろなものを感じることはできました。
 
まず、試合前の西川選手の表情を見ていましたが、他の選手もそうですがやや固いかなと思ったんですね。やはりワールドカップ予選ということもあり、相応に緊張しているのだと思いますしやや心配してはいたのですが、試合が始まったらきちんと対応していましたね。
 
試合はご承知のように日本がほとんどボールを支配する展開で、DFラインは非常に高い位置をとっていましたが、それに対して一度バックラインの裏からカメラアングルで映ったシーンでも、西川選手はきちんと高いポジションを取っているのが見えました。その時は、センターサークルより5メートルほど後ろの位置で、相手へのカウンターをケアする準備をきっちりしていたように思います。
 
それから、良い意味でワールドカップ予選のモードに入っている部分として、前半34分に酒井宏樹選手が相手を倒してカンボジアにFKを与えたシーンでは、非常に大きなジェスチャーで感情を露わにしていました。浦和レッズの試合を全試合見たわけではないので、彼が普段あれほど感情露わにする選手かどうかはわかりませんが、ひょっとするとハリルホジッチが声を出す選手をより評価している部分を汲んでそういうプレーを意図的にやっているのかもしれません。これはあくまで推測です。
 
FK自体のセービングシーンですが、蹴られる直前に西川選手はすでに前に出ようとして、2歩ぐらい進んでポジションを取っています。このシーンですが、読みというよりは「ハイボールに対しても出て行くんだ」という強い気持ちを感じました。これは、東アジア杯とは全く違うプレーですね。東アジア杯では、西川選手はゴールエリアの部分にいることが多かったですから。

西川選手は非常に賢い選手で、自分に何ができて何ができないかをしっかり理解しています。ハイボールはあまり得意でないことも自覚しており、東アジア杯については飛び出してボールを処理できないリスクよりも飛び出さないことによるリスクを選んだということだと思います。その判断のとおり、韓国戦でも北朝鮮戦でも、西川選手がもしハイボールに対して飛び出していたらもっとミスが起こっていたのではないでしょうか。自分の能力をわかったうえでベストの選択をする西川選手が、それでもこの試合ではハイボールに対して果敢にチャレンジしようとした(あるいはそういう姿勢を見せた)。そこがポイントだと思います。
 
果たして、この判断が「相手がカンボジアだったから」なのか、「カンボジア戦をきっかけにもっと前に出て行くように自分のプレーを変えたい」のか、そこはわかりません。しかし前述のように大きなジェスチャーをしたり、ハイボールの処理に飛び出そうという動きと姿勢を見せたり、普段よりもさらに積極的にプレーしているように見えましたね。
 
さてそのヘディングシュートを受けたシーンですが、バックステップを踏んで後ろに下がって、かつ雨だったこともあって意図的に一度下にバウンドさせてボールを処理しました。天候も考え、きちんと意図を持ってのプレーであり、ここも考えぬかれていると思います。
 
後半、ディフェンスラインでパス回しをしているシーンでは、かなりディフェンスラインに近い位置で「いいぞ、いいぞ!」と手を叩いて褒めているシーンも観ました。とにかく、積極的にコミュニケーションを取っている姿が印象的です。この動作には、もちろんディフェンスラインに良いプレーをさせると同時に、あまりプレー機会がない試合において自らの集中力を高めるという狙いもあったと思います。チームにとっても自分にとっても最善のプレーができる意図をもった行動が、この試合の西川選手はできていたと思いますね。前述の前半のFKの時のように、怒るべき時は怒る、後半のこのシーンのように、褒めるべき時は褒める。状況に応じたメリハリのある、最適なコーチングをしていました。

こういう試合においては、「ボールが来なかったんだから無失点は当たり前」と評価されることが多いでしょう。しかしよく見ていくと、GKがその中でもやるべきことをやっていたかは評価できますし、この試合の西川選手はそれがちゃんとできていたように思います。結果、無失点で終えることもできましたし、それが二次予選とはいえワールドカップ予選ですから、彼にとっても自信に繋がる試合になったはずです。これから、さらに良さが出て行くことを期待しています。
 
ただ、東アジア杯を振り返りますと、もう少し強い相手に対しても持ち味であるキックの精度を発揮できるかが今後の注目ポイントとなります。今日はさいたまスタジアムというホームグラウンド、慣れたスタジアムですが、東アジア杯では相手の強度が高くピッチも異なりました。そして、本来足元の技術が一番の武器と言われながら、韓国戦でも北朝鮮戦でもその持ち味は十分に発揮できず、あわや相手に奪われそうになるシーン、焦って蹴りだして相手に渡すシーン、ゴールキックやパントキックが相手にダイレクトに渡るシーンがありました。
 
カンボジア戦ではプレッシャーがあまりありませんでしたが、アウェーで相手の強度が上がった場合はどうなるか? ハイボールの処理もそうですが、相手選手との競り合いとなってどうしても前に出なくてはいけないシーンで、うまく処理できるか。そういう部分は今後とも見ていきたいです。東アジア杯では、持ち味に関しては西川選手よりも東口選手のほうが出ていた部分もあったと思います(ハイボール処理など)。ただ、そうは言っても10数試合とはいえ経験は西川選手のほうが上。様々な経験を踏まえて、ハリルホジッチ監督の中の序列は西川選手のほうが現時点では上にあるのだと思います。引き続き、良いプレーを期待しています。

<了>