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アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

例えば、スポーツにおいて一般的にはユニフォームに付ける胸スポンサー、あるいは試合中に掲示される看板スポンサー、さらにはスタジアムのネーミングライツなどが知られている。しかし、それらに「どのような価値があるか」について客観的な指標を見つけるのは、スポンサーサイドにはなかなか難しいと思われる。

そうした客観的な指標を自動認証技術によって作り出し、いまや世界的なシェアを獲得している会社がレピュコム・ジャパンさんだ。同社の代表取締役である秦英之(はた・ひでゆき)さんによると、スポンサーシップには大きく分けて2つの要素があるという。

秦英之(以下、秦)「弊社は、簡単にいうとスポンサーシップの価値を可視化する会社です。スポンサーシップには2つの要素があり、それは露出する価値と、露出された後の意味です。テレビ、ラジオ、紙媒体、オンライン、最近ですとソーシャルメディア。それらをどう数値化できるか。より多く露出することがスポンサー価値、媒体価値に直結します。プレミアリーグはより全世界に向けて発信されていますから、投資価値が大きいということですね」

露出が増えれば媒体価値が増える、ということは筆者のような素人でもある程度はイメージできる。だが、秦さんのお話を聞く限りスポーツにおけるスポンサーシップはより複雑な要素があるようだ。

「元々、テレビの画面における広告価値は、広告単価と露出時間を掛けあわせたものになります。テレビコマーシャルは人があって、音があって、物語があります。そこに30秒の価値があり、時間帯によっては高く売ることができます。

しかしスポーツにおいてはどうでしょうか? 例えばスポンサー広告は、画面においては胸スポンサーや看板などしか映っていませんよね? となると、『テレビコマーシャルと同様に、単価や時間を掛け合わせるのはフェアではないのでは?』と考えました。

そこで、開発されたのが『積み上げ方式』という考え方です。要は、スポンサーロゴが出現する大きさ、位置、回数、時間を4つの指標として考えようということです。それを自動認証技術で拾い、最終的に積み上げて最終的な広告単価を出そうという考え方です。事前登録すれば、どの箇所においた看板に最終的にどのぐらい露出価値が出たか、ということが可視化できます。スポンサーシップ業界では、この考え方がかなり一般的になっています。Jリーグでも3年前に導入されており、この考え方を理解することがまず重要になります」
 
実際にレピュコム・ジャパンのオフィスで自動認証ソフトの現物を拝見したが、F1の映像からロゴを自動的に抽出し、大きさ・位置・回数・表示時間を自動的に計測、動画が終わる頃にはその具体的な金額まで算出してしまうという驚くべき精度を誇っていた。
 
そしてこの技術の導入によって、媒体側はよりシビアな価値判断を迫られることになっていくだろう。実際、先日インタビューしたサンフレッチェ広島前社長・小谷野薫氏(株式会社エディオン取締役・経営企画本部 副本部長)は、アスリートナレッジにおいて次のようにコメントしている。

http://athlete-knowledge.jp/reports/295
>小谷野 また、すごくシビアな話では、実はサッカーよりも(エディオンでやっている)女子陸上競技部のほうが広告宣伝効果は高いという見方をする人もいます。
>――競技のあいだずっと胸スポンサーが表示されるわけですからね
>小谷野 駅伝だと延々と『エディオン』が流れているから、機械的な計算をするとそうなる場合があります。現在はJリーグもプロ野球もあまり地上波放送でやらないですから。

 
つまり、サッカーやプロ野球においても「本当に投資価値があるのか? 投資に見合ったリターン、狙ったリターンは引き出せるのか?」という部分においてスポンサーサイドがよりシビアになってきているのは間違いないといえるだろう。
 
傍証としては2014―15以降、マンチェスター・ユナイテッドの胸スポンサーを降りてトレーニングセンターのネーミングライツなどを取得したAON(エーオン)社の動きが挙げられる。再び、レピュコム・ジャパン代表取締役・秦英之氏のコメントをお借りする。
 
「AON社がマンチェスター・ユナイテッドの胸スポンサーを降りたのは、金額的な部分が云々ということではなく、同社にとっての目的、“認知の獲得”が達成できたからです。そこで同社は、次なるステップとして商売に直結するプログラムを用意し、胸スポンサーから降りてあまった金額を違う所に投資しているわけですね。練習着や看板でのスポンサードは維持しつつ、あまったお金でマンチェスターの選手・スタッフ全員にライフプランニング・プログラムを提供しています。
 
要は『われわれは、ウェイン・ルーニーのライフプランニング・プログラムをやっています』ということを商材に展開し、『AONはこういうことをやっている会社なんだ』とPRすることで、商売に直結させるわけです」

実際、デイリー・ミラー紙のウェブサイトによると、AONのブランド認知率はスポンサーシップ初年度に50%まで上昇し、ウェブサイトへアクセスするユニークユーザー数も試合放送日には55%増加したという(記事は2013年4月8日のもの)。

Ground control: Manchester United to rename Carrington 'AON Training Complex' in £150m sponsorship deal
>"Awareness of the AON brand increased from 39% to 50% in the first year of our sponsorship and the percentage of unique visitors to our website have increased by up to 55% on matchdays."

ブランド認知度が高まったことで満足するのではなく、さらに“次”を求められる……これは、アスリートナレッジでインタビューさせていただいた中村武彦氏(MLSアジア事業コンサルタント)も「アメリカでは、広告露出の“先”を求められる」という表現で同じことを述べている。
 
まとめると、世界的なスポーツにおけるスポンサー戦略はレピュコム社の自動認証技術の採用によって定性的・定量的に可視化されていること、単にスポンサードするのではなくその“次”が求められること、その動きはすでに日本でも起こっていること……こうした事実を頭に入れると、スポーツ産業に出資するスポンサー企業がどのような戦略を持っているのか、さらに興味深く見ていくことができるのではないだろうか。
 
取材・文:澤山大輔[アスリートナレッジ編集長]
Photo by Intel CES 2008