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プレミアリーグ・レスターに加入した日本代表FW岡崎慎司の評価がうなぎ登りだ。加入2試合目にして初ゴールをマーク、初戦も4得点のチームに陰ながら貢献しフル出場するなど、クラウディオ・ラニエリ監督からの厚い信頼を伺わせる。まだ序盤とはいえ、「プレミアリーグはフィジカルが厳しく、日本人には向いていない」という根強い意見がある中、上背にも恵まれず突出した身体能力を持たない岡崎選手の活躍はセンセーショナルといえるだろう。

では、具体的に岡崎選手はどのような点が優れているのだろうか? 前回の佐藤寿人選手の分析が好評を博した、長谷川太郎(TRE2030 STRIKER ACADEMY)氏にお話を伺った。(取材日:2015年8月18日 構成:澤山大輔[アスリートナレッジ編集部])

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サンダーランド戦の動き、それからウェストハム戦の得点シーンを観ましたが、とにかく動きの質が高いですね。常に裏を狙っているし、守備に関してもチームに非常に大きな貢献ができている選手です。

では、具体的にどういう部分がすごいのか。同じくオフ・ザ・ボールの動きに優れる佐藤寿人選手と似た部分もあるのですが、違いをいうと岡崎選手の特長は長い距離を走り切る、スピードアップできることです。長い距離でも、相手に走り勝って良い所にポジションを取れる。ウェストハム戦のゴールは、その典型だと思います。
 
もちろん足元で受ける際の技術も高く、身体の向きの作り方がうまいですね。相手に観られず、相手を観るポジションを取っている。そして、そこから長い距離を走れる。佐藤寿人選手はどちらかというと最終ラインとの駆け引きから一瞬のスピードで外すところがありますが、岡崎選手は裏に大きなスペースがあるときに飛び出して相手の脅威になる選手かなと。
 
得点パターンは、佐藤選手と比べて巧みには見えないところがあります。これは、佐藤選手と比べると一瞬の駆け引きでの勝負ではなく、長い距離を走る事も多いことから、走り出した瞬間(駆け引きの瞬間)に焦点がいかないからだと思うんですね。
 
岡崎選手の特殊な部分をいうと、「守備をしながらフリーになる」動きです。どういうことかというと、まずこちらがディフェンスをする際に、岡崎選手は相手のDFラインにプレスを掛けたり、相手のボランチにプレスバックしたりしますよね? この時、彼には相手のセンターバックなりボランチなり、マークが付いてこないわけです。なので、そこでボールを奪ってしまえば、その瞬間に岡崎選手はフリーになっている。そして、そのタイミングを決して逃さず動き出しを開始する。ディフェンスが、いうなれば岡崎選手に注目していない中で、パッと出ていけるわけです。
 
ディフェンスからすると、「こいつは自分のマークじゃないな」と思っている間に動き出されるものだから、たまったものじゃない。他にも、ガチャっとボールがこぼれた瞬間に動き出す、そこの切り替えの速度がものすごく早いです。「2回目」の反応がとてもいいですね。1回目のプレーが実らなかった時も、プレーを止めずに2回目、3回目でプレーを成功させたりというケースが目立ちます。
 
例えばクロスが入ってきて、自分の頭上をボールが超えたときも、そこで足を止めずに動き出す。DFはどうしてもボールを目で追わなきゃいけないので、その瞬間に動かれるとマークを外してしまうわけです。さらに、岡崎選手は1回目の動きで自分が使うためのスペースを作り、2回目の動きでそこを使ったりということもやっています。これだけの高い動きの質を持っているので、試合中に3回ぐらいチャンスが来るとすれば、1回は決めてしまえるんですね。
 
岡崎選手が泥臭くゴールを決めているようにみえるのも、その“2回目”の動きがあるからです。ウェストハム戦のゴールもそうですけど、過去のワールドカップ予選・ウズベキスタン戦でも、自分のシュートのこぼれ球を頭で押し込んだというシーンがありましたよね。華麗なゴールというより泥臭いゴール、何かが起こった後、誰もが「外れた」と思った次の局面、そういうところで足を止めないで次のチャンスに備えている、そういう印象があります。
 
ウェストハム戦のゴールシーンについてですが、まず追走してきた相手選手を外す動きをしています。映像を見ていると、岡崎選手は相手DFに追いつかれそうになる瞬間、スピードを一瞬落としたように見えます。これは、DFの心理を知り尽くした駆け引きです。というのも、追走するDFは相手に追いつけた時に「ああ、追いつけた」と少し安心してしまうものなんです。岡崎選手が狙っているのは、まさにその一瞬のタイミングなんですね。
 
さらに岡崎選手は、このシーンではキッカーが切り返す瞬間を狙っています。サイドでボールを持っている選手が、ボールを止めてキックモーションに入ると、ディフェンスはクロスを警戒してどうしてもボールを観る必要があります。まさにその瞬間を狙って、岡崎選手はマークから離れる動きをしてフリーになったわけです。
 
もし、ここで相手選手が岡崎選手だけを見ていたなら、彼は違った動きをしたでしょう。しかしセオリー的にそれは恐らくありません。ディフェンスとしては、「あっ、蹴ってくる。どこに蹴るんだ」とどうしてもボールを観てしまうタイミングですから。
 
さらに、ボールが入る直前に岡崎選手はディフェンスの後ろ、つまりディフェンスを「観る」ポジションをとっています。相手は、ボールと岡崎選手を同時に視野には入れられない。ボールを見たら、自分が見えなくなるような状況に持っていっています。
 
走り込むコースも完璧でした。あれ以上ニアサイドに入ると角度がなくなり、直接シュートを打つことは難しくなります。ゴールの枠の中に直線的に入るコースどりをしたことで、シュートまで行けたわけです。岡崎選手は他にも、追走してきた選手の前に入るチョイスも持っていたのですが、もう1人ディフェンスがいたこともあり外側のスペースを何回か首を振って確認し、このコースどりをしています。味方がボールを奪ってから、どのスペースを使えるか、その見つけ方がすごくうまいですね。

他にもパントキックなどのハイボールを競るときに、浮き球の落下地点に入るためDFが助走を取ろうとした瞬間に身体をぶつけ、助走を取れなくさせるといったこともやっています。相手の体勢を崩し、不利な体勢で競らせ、ボールを収めるか最悪でもこぼれるようにしている。身体が小さいながら、すごく多くの工夫を行なっている選手ですね。

こういうFWが増えたら、日本はもっともっと強くなるなと感じます。
 
 
長谷川太郎(はせがわ・たろう)
1979年8月17日生まれ。東京都出身。現役時代のポジションはFW。柏ユース→柏、新潟、甲府、横浜FCなど。2005年にバレー、石原克哉と3トップを組んで17得点をマークし、J2日本人得点王となる。2014年、インド・ムハンメダンFCを退団し現役引退。2015年5月、『TRE2030 STRIKER ACADEMY』を設立、本物のストライカー養成を目指して日夜励んでいる。