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アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

Photo by Bill Tyne ※徹マガより転載※
  
8月9日に閉幕した、2015年のEAFF東アジアカップ。
前回優勝のサッカー男子日本代表は、1敗2分の成績で大会史上初の最下位に沈みました。海外主要リーグのプレシーズン、開幕に重なることからいわゆる海外組を呼べず、またJリーグも過酷な夏のシーズンまっただ中ということで国内組もコンディション面で整わないという状況下、内容・結果ともにふるわない大会であったといって差し支えないでしょう。
 
その一方で、来るロシアW杯予選とその先にある本大会をにらみ、ハリルホジッチ監督がいかなる戦略をイメージしているのか、その一端がはっきりと垣間見えた大会でもありました。武藤雄樹(浦和)、遠藤航(湘南)、米倉恒貴(G大阪)といった新戦力の躍動とともに、それが第一の収穫だったのではないかと思われます。

現時点でうかがわれるハリルホジッチ監督の戦略とは、いかなるものか? それは、サッカー日本代表の宿痾(しゅくあ)とされる問題を解決しようとする試みです。

●日本代表が余儀なくされる<ふたつの顔>のサッカー

W杯本大会の連続出場を成し遂げているサッカー男子日本代表は、現在大きなジレンマに悩まされている。そう言われています。すなわち、強国として振る舞えるアジア予選では本来の技巧とスピードを生かした攻撃的なポゼッションサッカーで勝ち抜いていけるしそれが最適解であるが、一転弱小国となるW杯本大会では対アジア仕様の攻撃サッカーは通用しない。むしろ、守備面での強さをより求められるようになる。
 
コンセプト的にも戦術的にも、予選・本大会で正反対のサッカーが必要となるというわけで、チームとしてまとまった時間をとりづらい代表チームにとっては厳しい状況です。しかもこの窮状は今後さらに進行すれど、緩和されることはおそらくないでしょう。
 
実績・経験ともに日本サッカー史上最良といえる攻撃陣をそろえ、強力なアタッキングフットボールでアジアを席巻し、親善試合とはいえアウェーの地で欧州中堅・列強とも互角に渡り合う。そんな鮮烈な強化プロセスを経たザッケローニのチームが、ブラジルの地で惨敗といってよい結果に終わったことが、この問題を今まで以上に浮き彫りにしたのではないでしょうか。

ともあれ、この<ふたつの顔>問題をどう解決するか?

単純な戦術論だけではなく、そのための方法、戦略なしには、日本代表がアジア地域での成功やプレゼンスをW杯本大会に接続し、結果を得ることはできないと思われます。

●「本質」を追求した2014W杯のアルジェリア代表

ハリルホジッチ監督は、アルジェリア代表を率いた2014年のブラジルW杯でそのような方法論をみせ、なおかつ結果を出した指揮官の一人です。

ハリルホジッチ監督のアルジェリア代表は、4バックのゾーンDFを基盤としながら、様々な仕方でDFを組織できるチームでした。

主にSHとSBにどのような特徴を持つ選手を配するか、その組み合わせで戦術的な多様性を確保。4バックの基本システムで戦える相手であればそれで。相手のレベルや戦術をみて中央を厚くする必要があれば3バックに、低い位置でサイドを固める必要があればSHを落とす5バック・6バックなどに柔軟に変化。SHをDFラインに参加させる場合も、1枚落とす場合はもう一枚のSHをCMFとして中央に入れて3CMFの形でサイドを締めつつミッドフィールド中央も固めるパターンも持つなど、多彩なやり方を駆使します。

ですが、それよりも重要なのは、そのような多彩なDFシステムへの遷移をスムーズに行ないながらも、反撃に転じる方法は統一されたものをもち、しかもそれを相手の弱点に対し志向して効果的に反撃を行うという、多彩ながらも攻守に一貫した組織を作り上げていたことです。さらに、酷暑のブラジルでも90分保たれる走力とインテンシティ、衰えない球際への激しいアプローチ(Duel)がそこに加わります。

2014年W杯のアルジェリア代表は、相手に応じしっかりと守り・相手をよく見て自分たちの強みを生かしたやり方で反撃し・どんな相手にもボールの争奪戦で負けないという、サッカーの本質を追求するかのようなチームでした。であればこそ、それぞれレベルも戦術も異なる4チーム(GLでは韓国・ベルギー・ロシア、準々決勝でドイツ)に対してどの試合も互角以上の見事な内容のサッカーを展開し、結果を残せたのでしょう。

このようなチームは、まさに<ふたつの顔>問題を解決していると言えるのではないでしょうか。

●東アジアカップにおけるハリルホジッチ監督の狙い

東アジアカップの三試合でハリルホジッチ監督は、アルジェリア代表がみせていた「多彩な守備と相手のウィークポイントを使う一貫した攻撃」を就任後これまでの試合以上にはっきりと試みていました。

例えば……

・右SBに本来CBである選手(遠藤航、丹羽大輝)を起用し、選手交代をすることなく状況に応じて3バックやサイドの蓋をできるようにし、多彩な守備のオプションを採れるようにする。

・左SBに米倉恒貴のような、SHとしてもアタッカーとしても振る舞える選手を配し、そこに宇佐美のような攻撃面で変化をつけられる選手を絡ませられるよう組み合わせて、反撃時に有効活用する。
 
・相手のDMFを縦に引き出せることを利用し、その引き出した後のスペースを武藤雅樹のような選手に使わせ、ボールを奪った直後の縦パスで相手のバイタルエリアに一気に起点を作って素早い攻撃を行う。
 
・上記の起点作りを行なうと相手のDFブロックは中央に寄るので、ワイドからゴール方向を狙わせている宇佐美や米倉のようなアタッカーが躍動するゾーンを常に得られる。

・そのことで、中央の縦、ワイドからの切り込み、という、シンプルだがどのような相手にも仕掛けられる二択攻撃が可能となる。

これらの要素は、はっきりとアルジェリア代表の特徴に重なります。そればかりか、それぞれの狙いへの起用されている選手の適性、実際の機能性からみて、このコンセプトを実現するために国内組からだけでも少なからぬ選手を選べる。そういう展望を可能な試合が出来ていたのではないか。そう感じます。
 
アルジェリア代表で実現したようなサッカーを日本代表に持ち込むことで<ふたつの顔>問題を解消し、予選でも本大会にも一貫して使えるコンセプト、組織をもって今後に臨もう。もし、ハリルホジッチ監督がそう考えているのであれば、この大会はなかなかに収穫のあったコンペティションだったのではないでしょうか。

●ハリルホジッチ監督の眼前に横たわる、前任者達と同じ問題

とはいえ、良好な展望以上の問題が実感された大会であったことも確かです。

とくに、これはブラジルW杯以降各所で言われていることですが、個人・組織両面に渡る守備戦術の問題。世界基準に著しく立ち後れていると思われる、その骨子・全体像はひとまず置いておいても、単純にハリルホジッチ監督が求めているであろう「多彩な守備からの効果的な反撃」というコンセプトをにらんだうえだけでも、あまりにも問題が多すぎる。それが現状です。
 
ハリルホジッチ監督のコンセプトを実現するにはまず、どんな守備陣形にも攻撃にもスムーズに移行できるオートマティズムが必要になります。けれども、世界基準でその基盤となるはずのゾーンディフェンスの考え方、技術が日本代表の選手には(どのカテゴリーの選手にも)非常に乏しい。なのでオートマティズムはありえず、あるのは約束事のみ。
 
そのため90分の中で攻撃も守備も個人個人の判断がそろわない(そろえられない)状況が頻発し、バラバラになってしまう。試合開始当初は整っていたアンカーとインサイドハーフのチャレンジ&カバーが、試合中の修正を経るうちに基準点を失い、守備の統制を全体として欠くに至った韓国戦などはその好例でした。
 
これは、前任のザッケローニ監督もおそらく悩まれたはずの問題で、恒常的なメンテナンスが望めない代表チームにおける短期の指導でどうにかなるものではないだけに、ハリルホジッチ監督も頭を痛めているのではないかと想像します。
 
前任者と同じようにこの問題の解決(代表チームにオートマティックなゾーンDFを習熟させる)を諦めるのか。それはアルジェリア代表のようなやり方で<ふたつの顔>問題を解決することを諦めることにもおそらくなります。その場合、別の<二つの顔>解法をハリルホジッチ監督が用意できるのか。用意できない場合、日本代表のサッカーはいったいどうなっていくのか……。
 
興味と不安はつきませんが、ハリルホジッチ監督の抱いている戦略は、日本代表がまさに求めているものであることは間違いありません。目先の結果にとらわれず、是々非々の態度も忘れず、見守っていきたいところです。