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――クラブマネジメント全般について伺いますが、やはり地方クラブには特有のやりがいや難しさがあったと思います。具体的には、どのような部分でしょうか。

小谷野 その地方の歴史や産業構造と、サッカーは無縁ではないということですね。地方クラブが経営をやっていく際に、Jリーグクラブライセンス制度の中で無理の無い経営と言いますか、過度に身の丈経営を意識しすぎると今度は興行として面白くなくなっていくと思います。経営者、特に社長はある程度は最終的なソロバンを弾きながらも、「身の丈経営プラスアルファ」をどう実現していくか、特にプラスアルファの部分で頭をひねって、寝ないで悩みながら様々な決断を下していかなければならないと思います。
 
スポンサーも潤沢ではないし、いろいろなスポンサー企業間の序列もある程度は気にしなければいけなかったりします。そこは気を使いながらも、収入の最大化、または新たなビジネス機会の開拓に向けて、ある程度の英断も必要になります。また、クラブのブランド価値も大事です。私が社長だったときでも、チケットの価値を高めるということで、無料チケットをできるだけ絞るとか、チケットの安易な値引きはしないとか、短期的な観客動員やチケット収入との間で常に悩んでいました。例えば、集客の厳しい水曜日のワンコイン入場や駆けつけ割(キックオフ後30分経過すると半額)の復活はギリギリの決断です。

そうした意味で広島の街もサッカーも発展する取り組みということで、サッカーを中心とする多目的スタジアムを街中に作ろうと言う建設運動も、街とクラブをWIN-WINの関係にするうえで重要でした。今後のスタジアム建設の方向性に関しては、宇品のみなと公園が建設地として優位だとか、いろいろな報道がなされていますけど、まだ何も決まっていないということも事実です。宇品にスタジアムを作るまでには、まだまだ紆余曲折があるでしょうし、旧市民球場跡地に作るとしても、さらなる運動の盛り上がり、特に街づくり全体に関する市民の関心の高まりが必要です。「街中のスタジアムでサッカーも広島の街もみんなハッピーになって広島の競争力も高まる」という運動の原点を踏まえながら、サポーターや市民の皆さんにも引き続き頑張って欲しいと思います。

細かいことを言い出すときりがありませんが、これは最後は運動ですから。ネットでいろんな意見を言ったりするのも重要ですけど、最後は街づくりやスタジアム作りに関してみんながどこまで実際に行動するかで未来が変わってくる話です。そこは2連覇を達成したときもそうでしたけど、『スラムダンク』の安西先生じゃないですが、「あきらめたらそこで試合終了」です。40万人署名のパワーを発揮するのは、むしろこれからです。

どういう形で運動をもっともっと大きくしていくかというと、やはり市民やサポーターの方々がまちづくり、スタジアムづくりに向けて声を上げてくれればと思います。サンフレッチェのメインスポンサーであり株主でもある立場からコメントさせていただくならば、経営自立という意味で、観客動員は非常に大事です。サンフレッチェは年間5~6億円という入場料収入が10億円レベルになれば、初めて自立経営と言えます。エディオンが現在、相場よりも高めのスポンサー料を払ってサンフレッチェの経営をどうにか支えているのが現状ですから。
 
エディオンの大阪本社にいくと「サンフレッチェもいいけど、もっと(中日)ドラゴンズを支援してください」と言われたり、100満ボルトの金沢本社にいくとツエーゲン金沢と北海道日本ハムファイターズのユニフォームがかざってあるわけです。そういった意味でエディオンも全国企業になってきています。また、すごくシビアな話では、実はサッカーよりも(エディオンでやっている)女子陸上競技部のほうが広告宣伝効果は高いという見方をする人もいます。

――競技のあいだずっと胸スポンサーが表示されるわけですからね

小谷野
駅伝だと延々と『エディオン』が流れているから、機械的な計算をするとそうなる場合があります。現在はJリーグもプロ野球もあまり地上波放送でやらないですから。Jリーグもプロ野球もそうだけど、意外とそういうことをギチギチに言い始めたらやっぱり、自立経営というか、どうやって観客を集めてそこから入場料を取っていくのかをさらに追求していかないといけません。一方で、(アメリカの)メジャーリーグサッカー(MLS)の放映権料がいきなり上がって年間100億くらいになるでしょう。これと比べると、Jリーグの放映権料はかなり安いと言えます。

――実は先日、MLSのアジア戦略を担当なさっている中村武彦さんにもそのあたりはいろいろお話をお伺いしました。要は、これからはピッチ外の投資をどれだけやれるかにかかっていると。

小谷野
投資するにもまずアイデアと、エクセキューションの力と言うか、実行力が必要です。その意味で地方クラブの一つの問題は、まさに(フロントスタッフの)人材獲得、人材投資ですよね。サッカークラブの経営に関わりたいと思っているけど、広島に引っ越すのを家族が嫌がっているとか、給与水準にしても広告代理店とか商社、金融機関に務めていると給与は高くて、サッカークラブ、特に地方のクラブに入るとすごく下がるわけですよね。なので地方サッカークラブにはハンデがあります。さらに、経営トップレベルになると、岡山の木村社長のような、まずは他業界で成功を収めて、その上で地元のためにサッカークラブの経営をやるというような人に頼らざるを得ないかもしれない。今後は、人材育成とか獲得をJリーグやサッカー業界全体で真剣に考えるべきです。
 
一方で、地方都市は都会と違って大企業があまり多くありませんから。都会で年俸一千万円をもらって1億円の営業成績を挙げている人が、地方都市に行って半分の5千万円の成績でも出せるかといえば、これはわからないですね。仮に優秀な営業マンを2人とっても、クラブの収入が1億増えるかと言われたら厳しいかもしれない。都会のクラブはいろんな全国企業と提携するのが盛んになっているけど、それでも収入を1億円増やすのは難しい。ましてや、地方クラブはその積み上げが大変です。また、企業スポンサーの営業の立場からすると、Jクラブに広告を出して、それが経済的に意味あるということをわかってもらえるか、あるいは地域・社会貢献だと思ってもらえるか、どちらかなんですよね。
 
――そして現状は、地域貢献として思ってもらっているケースが多いと。

 
小谷野 特に地方クラブは、政令指定都市レベルでもその傾向が強いと言えます。しかしながら、短期で広告宣伝料収入を増やすために「地域貢献のためにお金を出してくれ」と言い続けると、長期的には自分の首を絞めることになるわけです。また、そういう営業トークばかりをやらせていても、若いスタッフのビジネス感覚も育たない。やっぱり、「Jリーグのクラブに宣伝を出すとこういうメリットがあります」という経済的なメリットをきちんと提示できるようにするのが、営業の目指すところと言うか、王道だと思います。そのためにも、地道なスポンサー訪問と並んでか、それ以上にクラブの認知度向上に向けてのプロモーションが大事になります。

でもまだまだ、一般の日常生活をしている人たちにはサッカーの情報って浸透してない訳ですから、情報発信は非常に重要です。「コア向け」とか「ライト向け」とか、正直どうでも良いわけです。ひたすらJリーグなりサンフレッチェなりの情報を、シャワーのように発信し続けることが大事です。AKBを応援している人って、ライトでもあるけどディープでもあるじゃないですか。そういう情報って、こっちが企画して情報を選別して与えるよりも、個々な選手やイベントの話を、クロスメディアで盛り上げるのが勝ちだと思います。私は、社長時代に選手がSNSをすることに関して制限はせず、むしろ推奨していました。余談ですが、サイバーエージェントの755などは、現在苦戦しているとの話もあるようですが、個人的には注目していました。また、小売業における、リアル店舗とリアル店舗の垣根を無くしていく「オムニチャネル」の発想も、クラブの集客やグッズ販売のビジネスに応用が効くと思います。

コアな情報もマニアックな情報も含めて。名古屋に居たベンゲル監督がイギリスに行って、タブロイド紙の攻撃と戦った上で、彼自身「ああいうのがイギリス人をサッカー漬けにする上で大事だ」とあえて言っていましたのを思い出します。ベンゲルは、日本でサッカーがプロ野球にメディア露出の面で伍していくには「タブロイド的なアプローチも大事だ」と言い切っていますよね。

――そういう意味で、「珍プレー好プレー」みたいなのも復活させてもいいと思います。

小谷野 いろいろ意見はあるかと思いますが、個人的にはなんでもアリだと思います。世の中の注目を浴びたほうが勝ちでしょう。もちろん、他のスポーツとの共存共栄を目指さなければいけないのですが、一方で時間は有限です。こればかりは変えようがない。一般の消費者たちから1日24時間を、どうやっていろんなコンテンツ産業やエンタメ産業、スポーツ産業、スマホアプリで取り合うか、という形になっていますよね。