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アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

「日本のCBに足りないものは何か?」というテーマについてただ闇雲に「あれが足りない」「これが足りない」と指摘しても建設的でないですし、何を優先して修正すべきかあいまいになってしまう危険さえあります。今回は東アジアカップの、中国対日本の試合を例に挙げながらCB部分のみに注目して自分だったら何を優先して修正するかという視点で見ていきます。 
 
■先読みしたポジショニングができない
 まず守備面において一番気になったのはDFラインのコントロールです。特に相手が味方DFラインの裏にロングボールを狙っているのに、先んじてラインを後退できていない場面が何度かありました。本来、相手の狙いを先読みしてロングボールが来る前に、相手攻撃選手よりも先に後退を始めボールに触れられるポジションを取らねばなりません。
 
 また相手と味方でが空中戦の競り合いになりそうな場合も、味方が競り負けるケースを警戒してその後ろのポジションを取ることも必要です(ペナルティエリア内は例外になりますが……)。これができなければ、一本のロングボールでチーム守備は簡単に崩壊してしまいチーム守備が成り立ちません。これらはCBの守備として身につけておかなければならない、基本的な原則です。
 
 ここまで読んでくださった方々の中には、何を今さら当たり前のことをいうのか! と思う方もいらっしゃるかも知れません。しかし当たり前のことを当たり前にできていないのが今回の日本代表の現実です。当該の試合でいうと前半は7本中3本、後半は9本中3本が先読みをしたポジションがとれていません。
 
 前半の3本のミスのうち、一本目はたまたまロングボールが長すぎて相手選手が追いつけずゴールラインを割り(前半5:52)、、二本目はGKと1対1の決定的な場面を与え(26:15)、3本目は甘いカバーリングでしたが1対1で競り勝って事なきを得ました(前半45:32)。後半も9本中3本が先読みできていませんでしたがポジションミスを競り合いの強さでカバーしてなんとか失点を免れました。
 
 ただ3本目以降は前半よりも相手の動きにも慣れてきたせいもあり先読みを伴ったポジショニングができていました。ただ世界のトップレベルではこういうミスは即失点につながるので、一度だけであっても許されません。
 
 このようなミスが発生している原因として、そもそもラインをいつどのように下げるか理解できていない場合と、頭ではわかっているけれども集中力を切らしてしまいできなかったという場合があります。カタルーニャ・フットサル協会会長のカジェ(Jose Miguel Calle)の言葉を借りれば前者は戦術記憶(Memoria tactica)の有無の話であり、後者は戦術記憶があることを前提に戦術順応(Adaptación tactica)のレベルに達しているか否かという話です。
 
 私がこれを踏まえて観ても、アウェイの圧力と猛暑で集中力を切らせているという場面もありましたが、相手SBの体の向きや味方のプレスの甘さを見極められず、ラインを退くどころか不用意にラインを上げて相手にやられている場面もありました。正直、細部の部分になるとラインコントロールに対して誤った理解さえあると感じました。
 
■攻撃面、森重は健闘したが……
 日本代表のCBの攻撃面で、私が一番気になったのは槙野選手のプレーです。
 
 厳しいことをいうと、槙野選手には「数的優位をいかに作り、相手守備を崩すか」というアイディアがほとんどないため、攻撃のブレーキになっていました。もちろんこれは槙野選手だけではなく、同点弾アシストが出るまで米倉選手のポジションがあまりにも低かったという問題もありました。
 
 ただそれに対して何の疑問を持つことなく、槙野選手は戦術的な価値がないどころか相手に狙われるパスを出していました。特に前半20:15の米倉選手へのパスや、前半31:23の森重選手へのパスは相手プレスの餌食になり、せっかくの攻撃機会を逸していました。
 
 そもそも左足をあまり使えない選手が、左CBとして攻撃で貢献するところに難しさがあります。
 
 例えば、右サイド方向にボールを蹴るときに体を右に向けて右側にボールを置き直すので、攻撃の方向が予想されやすいという問題があります。FCバルセロナのハビエル・マスチェラーノも、右利きながら左CBです。チャンピオンズリーグ決勝では、右足でサイドにパスするときは右SBへ高速でサイドチェンジするときだけで、右CBのピケに攻撃のビルドアップとして右足でパスしたことは一度もありませんでした。
 
 ドルトムントのCBであるフンメルスは、どうしても短い横パスを出すときは左足のインサイドを使っています。逆に左利きの左CBは体の方向を大きく変えること無くパスを供給できるので、チームとして貴重な存在です。ハビエル・アギーレ前日本代表監督が国内で無名の左利きのCBを招集したり、フィリップ・トルシエ元日本代表監督が左利きの中田浩二をほとんど未経験だった左CBにコンバートしたのもそういう意図があります。
  
 右CBだった森重選手については、この概念をだいぶ理解できていると感じました。例えば前半40分に日本の同点弾がありましたが、森重選手の細かい動きがその端緒となっています。最初に彼がボールを持ったときにわざと目の前の相手フォワードにドリブルを突っかけ、犬の鼻先に骨付き肉を晒すようなプレーをみせました。
 
 当然、相手選手はボールに食いつき、その後に槙野選手にボールを渡しました。相手FWは森重選手が持つボールに意識が食いついてしまった分、槙野選手へのプレスが緩みました。その緩みによって槙野選手は冷静に狙いをすまして、米倉選手へ見事なスルーパスを成功させることができました。
 
 その他にも自分のボールの持ち方や運び方で相手守備がどこに集中し、そこが緩むかという部分も森重選手はよく理解できているように思います。反対に槙野選手は球際の守備で強さを見せた半面、森重選手が見せたような痒いところに手が届くプレーに課題があったと思います。
 
 昨今、チームの守備戦術が日進月歩で洗練されていく中で、攻撃で主導権を握るためにはGKやCBが攻撃に重要な役割を果たさなければならなくなっています。一昔前まではトップ下が攻撃の司令塔と呼ばれましたが、プレスの精度の向上とグアルディオラやピルロ、チャビ・エルナンデスの登場によって司令塔はより低いポジションの選手の代名詞となりました。さらに守備戦術の質が向上していく中で、FCバルセロナのピケやマスチェラーノなどに代表されるように、CBが攻撃の方向性を決定づける司令塔といわれる時代も近いのではないでしょうか。