athlete knowledge

アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

2ステージ制が導入された今年のJ1において、チームとしての主役は少なくとも1stステージにおいては浦和レッズだろう。しかし、個人としての主役を挙げることが許されるなら、佐藤寿人(サンフレッチェ広島)は間違いなくその一番手に挙げられる資格があるように思う。2015年6月20日の山形戦でJ1・J2通算200得点を達成。J2だからといってJ1の誰もが得点を量産できるわけではない中、この成績自体も特筆すべきだろう。
 
そしてJ1通算得点を2015年8月12日時点で155得点とし、1位の中山雅史まであと2得点となる2位に付けた。まだ現役バリバリの佐藤寿人が、今シーズン中にJ1通算得点で1位に躍り出る可能性は高いといえる。
 
ところで、佐藤寿人の凄みはよく「動き出し」「ポジショニング」だということが言われる。しかし、その動きを具体的に細分化する記事はそれほど多くないように思う。それは、佐藤寿人の凄みは実際にプレーして初めて理解できる部分も大きいからだ。では、具体的にどういう部分なのだろうか? 2005年に甲府にてバレー、石原克哉と共にプレーしJ2日本人得点王となる17得点を挙げた長谷川太郎氏は、佐藤寿人の凄みを端的にこう述べる。

長谷川「一言でいうなら『相手DFの仲を引き裂くFW』だと思います。といっても、別に何か悪口を吹き込んだりするわけではありません(笑)。どういうことでしょうか? 秘密は、彼が得点を奪った後のDF同士の顔、向いている方向、それを注意深く見ているとわかります」

どういうことだろうか? 確かに、佐藤寿人が点を挙げたシーンでは、相手DF同士が何か不平を述べているケースが多い気がする。

長谷川「普通だれかに点を入れられたときは、マークしている選手はだいたいハッキリしていることが多いですね。『ああ、彼が外されたんだな』とわかります。だけど佐藤寿人選手の場合、得点を決められたあとの相手DFを見ていると、ジェスチャーから様々な不満を口にしているケースが多いことに気づきます。『おい、今のお前のマークだろ』『違うよお前だろ』『そもそもクロス入れられるのが悪いだろ』……彼らの身振り手振りから、そう言っているのが聞こえてくるようです」

もちろんこれは、佐藤寿人の質の高いオフザボールの動きがもたらす副産物だ。では、具体的なシーンを挙げて解説していただこう。特徴的なシーンは、J1第15節柏レイソル戦で挙げたゴールシーンだ。

長谷川「0:29頃からを見るとわかるのですが、佐藤寿人選手はミキッチ選手からクロスが入るまさにその瞬間、バックステップを踏んで8番の選手の後ろにスッと移動します。この移動のタイミングと距離が絶妙で、このタイミングでないと意味がなく、これ以上動くと背後にいるDF4番にマークされてしまうんですね。

さらに、この動きを入れることで、佐藤寿人選手は相手に"見られる"状態から相手を“見る”ポジションをとったわけです。この瞬間は、相手DFにしてみると訳がわからない。8番の選手はもう1人マークすべき相手選手がいるので『後ろの選手が見てくれているだろう』と思い、その後ろにいる4番は突然佐藤寿人選手が視界に現れたものの、マークするには遠い位置です。そこにクロスが入ったら、もう見送るしかないわけですね」

実際に得点が決まった瞬間、柏のDF陣は「オフサイドだろ!」「なんでボール入れられるんだよ!」そんな感じで、ジャッジやボールの出どころに不満を述べているように見える。冒頭で説明したように、誰のせいでやられたのか当人たちにはわかりづらいシーンなのだ。

小さなFWでも活躍できるということは、佐藤寿人だけでなくプレミアリーグ・レスターの岡崎慎司(174センチ)、川崎フロンターレの大久保嘉人(170センチ)らが証明している。現在のタイトルホルダーである中山雅史にしても178センチであり、これらの身長はJリーグならば180センチ以上、海外では190センチ以上あるのが普通であるDF陣にとっては誤差に等しい。言うなれば、日本人FWの大多数は“小さなFW”なのである。
 
長谷川氏自身も167センチと、佐藤寿人とほぼ同じ体格だった。そのこともあり、氏には佐藤寿人の動きが特に共感できるようだ。小さなFWが生きる術は、相手に“見られる”ポジションからいかに逃げるか、そして相手を“見る”ポジショニングをいかに取れるか。
 
折しも東アジアカップで、日本代表FW陣は3試合とも無得点に終わった。コンディションや過密日程、急増チームなど要因は様々にある一方、FWの動きという部分には明確に課題があるように見受けられた。繰り返すが、日本人FWの大多数は“小さなFW”である。長谷川氏の意見は、これからも定期的に取り上げていきたい。