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アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

Photo by Guilhem Vellut
 
またろ 前々からスタジアムを公共財としてイメージしてもらうにはどうするかという話を澤山さんとした中で、「長い間貴族制が踏襲されて、貴族階級が文化として認知されているイギリスと違って、日本が作ったときは“どうせ金持ちの道楽なんでしょ””どうせ企業の接待なんでしょ”と思われる」という話をしました。

ただ、ライトなカジノチックな、誰でも足を運べるような場所になればいいと思うんです。マカオのカジノのウィークエンドは、台湾や中国で働いてた人たちがその1週間で貯めたお金を持って賭博をしにくるんです。ちょっとした背伸びですよね。それが健全かどうかという議論はあるけど、誰でも楽しめるVIP空間はどうやったら作れるだろうか? 上を目指して頑張れる、モチベーションを作れる社会。僕はJリーグとかプロ野球とかでひいきの球団を作って、17時まで一生懸命働いて、その後に応援しにいくというモチベーションを作るという意味でのスポーツはすごく有意義だと思いますね。

千田 カジノじゃなくてレジャーランド的なのもいいかなと。

またろ それも良いと思います。アトラクション的な扱いですよね。ただ、その代わり格式の高い大会および試合があるときはすっぱりそれを切って、上流階級へのサーブもできて、そういうスタジアムであればいいかなと。ハード面でお金がかかるといってますけど、運用の仕方を考えないといけません。そこのところってすごく曖昧ですよね。

僕らが広島のサッカースタジアム関連の運動をやっているときも、相当叩かれました、「年間20試合程度のために作るなんて正気の沙汰じゃない」と。それに対して自分たちも「スタジアムを使うけど芝を痛めないイベント」とか「ピッチサイドとスタンドだけでできるイベント」などを書き出しました。そこで、総合的なアミューズメントはできると思うんですよ。スタジアムのど真ん中で、でんじろう先生みたいな広いところでしかできないイベントをやるとか。5万は集まらないけど、数千人規模であれば毎週末、興行ができる。0か100ではなく2とか3とか、将来的に5とか6とかのコンテンツを積み重ねて集合知にしておかないといけないと思います。

千田 結局、白紙撤回されましたけど、これからどうなりますか?

またろ いまは静観しています。でも出てくる情報が裏を取ってないものが多いのではないかと思います。政府は、コンペはせざるを得ない。国際貿易機関(WTO)の規定があって、1000億を超える公共施設はコンペをしなければいけないというものがあります。コンペをご破算したら、もう一回しなければいけないらしいですね。ただ、逆算すると2月には着工しなければいけない。どんなコンペにしてどうするのかも決まらず、新しく見なおした計画概要はこれから頑張って作って秋口に発表。これではあまりに遅いです。

千田 コンペの2位案3位案ではどうなるでしょうか?

またろ 検討したとは思うんですけど、ザハ案より高くなる可能性が高いと、そういう検証結果が出ているんですよね。それぞれ夢の様な絵を描いているのだけど、それぞれコストがかかるものがあって。それを積み重ねていくと、ザハ案よりも高くなると。

――今までは、ザハ案のキールアーチが主犯だと言われていましたが……。

またろ キールアーチ自体が犯人ではないでしょう。僕は、犯人は『開閉式の屋根』かなと思います。あんな8万人規模のところで、ど真ん中を塞ぐというのは難しい。スタジアムのボリュームがでかくなると、真ん中に柱は立てられないわけですよね。その大規模な建築物の上に、ドンと重いものを乗せるそもそも無理な構造です。しかも、その重いものが動くというわけですよね? 両方の屋根を、均等に動かさないといけないわけですよ。

――ただでさえ屋根を付けるのは大変なのに、それが開閉となると難易度が跳ね上がると。

またろ 動く装置というのは許容限度の位置のブレを抑えないと絶対にひっかかります。風のチカラだけでも、使いものにならなくなる。台風が来るときに閉まらなくなる。そんなのは、使いものになりません。そして、そんな苦労をして作ったところに入る興行収入が3億とかなら、いやいやそこは見直しましょうよと。

あるいは逆に雨の日もやるか、日にちを長く取るかですね。日本の雨って梅雨時期を外せばそんなに長く続かないので、場所を1週間を取っておけば順延日も組める。そういう前提でできるので、運用の仕方は色々とあります。屋根がかかってない球場のコンサートのノウハウも、すでにあるわけじゃないですか。

千田 コンサートが夜10時までしかできないなら、観客席だけを覆う屋根にすればいいと。

またろ それで300億位は下がると思います。なぜかというと、閉めるからこそ空調が必要なわけです。閉める前提でなければ、空調はいらない。自然換気でいける。空いているところは煙突効果と言って、空気がそこに向かって上がっていくんですよ。ここを閉じてしまうと、行き場所がなくなる。

――湿った空気が滞留してしまうと。

またろ そうです。なので、閉じると空調装置が必要になってくる。屋根を閉じるからこそ、そういうコストがかかるわけです。なのでキールではなく開閉式屋根が犯人。キール案じゃなくても、他の案でも同様にお金がかかる。

千田 2万トンの鋼鉄がどうっていうのではないんですね。サッカー専用の小さいスタジアムであればともかく、8万で陸上トラックがついているようなところで開閉式屋根をやるからお金がかかると。

またろ 誰かがtwitterでつぶやいていたんですけど、8万規模で開閉屋根がついていてトラックがあるスタジアムは世界では存在しないと。

千田 8万と陸上トラックを活かすのであれば、屋根を外すしかないわけですね。スポーツ以外のイベントとかをどう使うか。音楽のイベントで22時以降もがんがんやりたいから、屋根を閉めたいんだというのが都倉俊一氏の意見でした。

またろ でも、あの屋根をかけるからって騒音が住民との協定以下になるかというそういうシミュレーションをしたら、”だめなんじゃない?”っていう声もあるんですよ。というのは、屋根というのは膜なんです。音を止めるのは質量で、重さがないとだめだと。

千田 音楽以外の使用方法を考えるというのも、どういうスタジアムを作るかということに関係してくると。ただの箱ではない。

またろ 昼間のイベントに限れば夜の騒音規制って通常15から20デシベル違う。昼はここまでできる、夜はこれまで、というのでどこでもやっているので。

千田 それをやって300億節約して、ランニングコストを考えてと。

またろ そうです。次にメスを入れるとすれば8万を7+1にするのか、ということ。仮設スタンドじゃだめなのかと。ただ、小倉さんは常設8じゃないと言いはっている。ただそれが違うんじゃないの?って言っていかないといけない。

――普通に考えて2022年ワールドカップのカタール開催がもしなくなったとして、“すぐにやってくれ”と言われてすぐ対応できる国って少ないわけですよね。そこで”8万人じゃないけど”と交渉すれば良いですよね。

またろ 少なくとも陸上トラックの上に観客席作れば、僕の計算だと少なくとも5000はいきます。あとは最上段の所で何らかでぐるっと一周やっておけば5000は稼げて、6.5に5000と5000を稼いで7.5になるかなと。

――7万5000人まで伸ばせるなら、なおのこと十分ですよね。

千田 VIPエリアとか屋根がどうとか放映権がというのは、そろそろ、やめなければいけないというか、見なおさなければいけない時期に来ている。それとスタジアム基準は一体だから、その膨れ上がりすぎた傲慢なサッカー界を反省しなければいけないなと。

またろ 結果的にはそこは心痛いんですけど、要求だけいってケツを拭ってないじゃん、といつ言われるかドキドキします。

千田 その他にも震災復興もあるわけですからね


千田 スタジアムは、ただの箱ではないと。使い道を考えないと、設計した所でしょうがないわけで。

またろ 作った瞬間に蓮舫さんに叩かれるようなものを作ってもしょうがないですよね。僕は集合知という言葉が好きなんです。要は、知識は積み重ねていくべきだと思うんですよ。

――今回の議論をきっかけに、スポーツ界での建築リテラシーを高めていければと思っています。

またろ 僕はバスケットボールやバレーボールなんかが気になっています。アメリカなんかはバスケットの専用スタジアムがあると聞いて、それが信じられない世界なんですけど。すり鉢みたいな数万キャパのスタンドの真ん中に小さいバスケットコートがあるとかね。そういうものを考えて、日本のスタジアムをどうするべきかと。今日ちょうどヤフーのバイラインを見ていたら、プロの興行に対して最適化させる、つまり専用化することで理解を得ている公共建築を作って成功している例は欧米はたくさんあると。日本の公共建築は、公平に使いやすくしようとしてすごく中途半端になる。どの競技をやってもどこかに不満が残る総合体育館しかできない、そこが大きく違う。

発想を切り替えて、どうやれば建物の総合的な価値、スポーツを含めての総和がとれているか。そこを検討すべきだという記事だったんですけどね。アメリカとかはMLSでも合理主義で、純利益を追求して割り切ったものを作ってそれが世間に受け入れられている。それが全ていいとは言わないけど、全員がハッピーになるという幻想を追いかけ続けるのも時代遅れかなと。そういう話はしてきてほしいなと思います。

千田 硫黄島で死んだ西竹一さん(バロン西)という方がいて、1932年のロサンゼルス五輪で馬術障害飛び越え競技で金メダルをとったんですが、閉会式の写真を見たら1984年と同じスタジアムでしたね。バロン西の馬の代わりにカール・ルイスがいた。ロサンゼルスは同じスタジアムで2回、五輪をやっているのです。それを見て、改めて「国立は壊さないで欲しかったな」と。もしできるなら、どんなスタジアムができるかわからないけど、旧国立競技場に似たようなものができないか。そこに元の聖火台とか壁画とかを戻して、64年のオリンピックでも使われていた、あとはメダリストの名前が刻まれたプレートなんかもね。保存したけど今後どうするかは決まっていないと思うので、それを元の場所に戻せるようなスタジアムができないかなとは思っています。

またろ メインのところに出て行く所、スタジアムのどまんなかから選手が入場する所。あそこの景観だけでも復元するのはありだと思う。「ここは伝統のある空間だ」と思えると思うので。あとはもう、記憶をポイントポイントにちりばめていって。全くドンピシャをつくるのは難しいと思います。記憶に残るところはある程度限られていますから。例えば広島市民球場の正面の格子を見れば“ああ、これは市民球場だ”と思えるわけなので。そういう遺産はリスペクトしてほしいですね。

――お二方とも多忙の中、興味深いお話をありがとうございました。スタジアム学会の話含め、この問題は引き続きアスリートナレッジで継続的に取り上げていきたいと思います。今後とも、何卒よろしくお願いいたします。