athlete knowledge

アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

 またろさんはある大手施工会社に勤め数々の案件に関わってきた経験豊富な人物であり、この新国立競技場問題について当初から問題提起してきた建築士の一人です。
 
 新国立競技場問題は、安倍晋三首相の鶴の一声によってゼロベースでスタートすることになりました。この判断を“英断”と呼ぶ声も多いのですが、果たしてそれはどの程度妥当な評価なのか気になります。実際、間に合うのでしょうか? 一級建築士の観点からお話を伺いました。なお、後日またろ氏と、とある方の対談企画がスタートいたしますのでそちらもぜひご覧ください。(収録:2015年07月22日 インタビュアー:澤山大輔[アスリートナレッジ編集部])
 
               ■   ■   ■

■非常に危機的な状況にある
またろ 報道によると、今政府が検討しているのは2016年2月着工ということですが、仮にその日程で着工できるのであれば間に合います。ただし、現時点(7月23日)から来年2月までに設計が終わるというのはほぼ不可能に近いです。
 
 新国立競技場の設計に関しては、まず設計者が決まり基本原案が決まっている前提ですと、そこから設計が8カ月、確認・申請業務が4カ月。申請業務に関しては短縮できたとしても3カ月は必要でしょう。
 
――つまり普通にやると11カ月は必要と。現時点で設計者も基本原案も決まっていないうえ、着工が来年2月としてもあと7カ月程度しかありません。今すぐ始めてもすでに4カ月足りないという状況なのですね?
 
またろ そうですね、足りません。一体誰に話を聞いたの? という状況ですね。死に物狂いで体制を倍にしてやれ、と言われてできるのは設計工期を3分の2にするまでが限度です。どんなに人をつぎ込んでもコントロールができません。設計の8カ月を6カ月に短縮し、許認可関係は東京都に協力を求めて3カ月を2カ月に短縮にすることはなんとか可能かもしれません。
 
――それでも8カ月。ものすごーーーく頑張って短縮しても、それでも1カ月足りないわけですね。
 
またろ 来年2月に着工すると間に合うというのは、規模にもよります。8万人規模にするのか、6万人規模にするのかでも違ってきます。もし6.5万人程度に縮められれば、横浜国際総合競技場と同じです。横浜国際総合競技場が3.5年かかっているので、何とか頑張ればそれぐらいで行けるかもしれません。
 
 どうにか乗り切る案としては今からコンペ案を作って何とか3カ月で乗り切って、直後にスタートしてものすごく厳しい工程を乗り切りながら着工にこぎつけて、そこからゼネコンさんがものすごい苦労をしてようやく出来上がるのが2020年4月ぐらいでしょう。
 
 あとは、コンペをする部分としない部分をわける、という方法はあるかもしれません。再コンペは国際的な約束でやらざるをえないとしても、例えば建物周囲の造成とか外構とかは別にして、そこは随意契約で、元の計画図面をもとに着工してしまうとか。これなら、本体の設計施工業者が決まるのも2016年2月、着工も2月というマジックが可能ですね。でもとてもイレギュラーな形ですよ。

――めちゃくちゃに苦労して、イレギュラーを重ねて、それでもようやくギリギリということですね。
 
またろ そのあとオペトレができるかどうか。非常に危機的な状況であることは間違いありません。
 
――建築に詳しいわけではない人たちにとっては、「あと5年ぐらいあるのだし、日本だから何とかなるだろう」という感覚が一般的だと思いますが、それはだいぶ甘い想定であると。
 
またろ できれば、コンペもやりたくないです。ザハ・ハディド氏を戻せばすべてが解決しますし、本人も関わろうとしてくれているわけです。
 
――ザハ氏も、この状況が非常によろしくないことを認識し、助け舟を出してくれているわけですね。毎日新聞の記事を引用します。

> 新国立競技場:女性建築家ザハ氏、再び意欲
>毎日新聞 2015年07月23日 15時00分
> 総工費が高騰したため計画が白紙撤回された新国立競技場のデザインを手掛けた、イラク出身の女性建築家、ザハ・ハディド氏(64)が今後も建設に携わっていく意欲を事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に伝えたことが23日、わかった。英国在住のハディド氏の事務所幹部のジム・ヘベリン氏が22日にJSCを訪問し、JSCの河野一郎理事長に意向を伝えた。

 
またろ 条件だけを変えて、つまりコスト増の主要因である開閉式の屋根を取りやめてホスピタリティ施設を半分にし、博物館などは取りやめて、それでなんとかコストを2000億切るような状況にすればどうにか間に合うかもしれません。
 
――それらの条件がすべてそろうか、非常に厳しい中でも建設的な提案を出していただいてありがとうございます。近日中に、またろさんと某氏との対談企画を準備させていただきますので、本記事はその導入としてお読みいただければ幸いです。