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アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

中村 「いいものを作ればお客さんが来る」という伝説があります。でも、考えてほしいのは、その「いいもの」とは何を指すのでしょうか? ということですね。チケットを2000円で売るとして、お客さんに「この2000円、皆さん何のために払っていますか?」とアンケートをとったとして。「試合を観るための入場券」と言われたらもったいないと思います。「じゃあ、悪い試合だったら返金しなくてはならないのでしょうか?」となり得ますから。

アメリカの場合は、お金を払ってその場を楽しむ「観戦体験」。きれいな売店があって、きれいな座席があって、美味しいご飯があって、チアリーダーがあって、ハーフタイムショーがあって、マスコットがいて、おみやげいっぱい貰えて……そういう話です。彼ら、あんまり試合観てないですものね。もともとアメリカのスポーツって試合を観るようにはできていないんです。野球もアメフトもそうです、誰も4時間ぜんぶを観ていないんです。

――確かに、野球場でも誰も野球そのものは観ていない感じがありますね。ビールを飲んで、あの雰囲気を楽しんでいる感覚がある

中村 その通りです。イニング毎に飲食物を買いに席を立ったり。2000円で入って、飲食その他に4000円分落としてくれれば、1人当たりの単価は6000円です。ここにお土産代や、プログラム代、駐車場代なども加わります。2000円で入って試合だけ観られると、経営者としては困るわけです。席を立ってコンコースに行ってほしいんですよね。マイナーリーグの球場を視察されると分かりますけど、マイナーリーグでは野球の質はマイナーですよね。一流の野球観たい人はメジャーに行きますよね。

でも、マイナーって満員になるところがいっぱいあるじゃないですか。行ってみるとコンコースがすごく広いんですよ。で、皆、飲み食いしながらコンコースで立ち見してるんです。子どもを預ける場所もあって、地元の家族同士で500円で入って飲食して、4時間団らんしてグッズなども買って1万円くらい使う。だから、こっちでの算出方法は客単価じゃなくて家族単価で出すんです。メジャースポーツですと、家族単価だいたい2万8千とかいくと上等、って言われますよね。

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――サッカーを知らない人がサッカービジネスをやることに、日本ではまだ抵抗があるように思います

中村 私は、むしろメリットになると思います。MLSのコミッショナーだって、サッカーをやった経験はありません。そのスポーツが好きだったらそれに越したことはないですけど、MLSのオフィスの中で大学バスケで盛り上がるグループもありますし、そこはあまり関係ないですね。むしろ、サッカー経験は二次的なものではないかって思っています。

日米のもう一つの決定的な違いは、ゴール裏のサポーターズグループに対する対応ですね。彼らは、ピッチ上で起きていることを観に来ているんですね。勝つ、負ける、スター選手、良いプレー、悪いプレーに一喜一憂する人がゴール裏にいる。残りの3面はカジュアルなファンで、そこまで試合にあまり興味がないんですよね。初めて来場する人も多くいます。

アメリカの場合、ゴール裏のサポーターグループは「能動的に熱心に来て下さる人たち」という概念で扱っています。ぞんざいには扱わないし、担当者もちゃんといます。けど、それが全てとは考えない。何故ならスタジアムを埋めることが目的でチームは経営をしているので、残りの3面が入ってくれなければ困るわけです。そのためには、サッカーだけを売っても仕方がない。勝とうが負けようが関係ない人たちにも売らなくてはいけないので、その3面が喜ぶ仕組みを作るのがチームの仕事ですので、サッカーを知らなくとも良いのです。ハーフタイムショーだったり、チアリーダーがいたり、マスコットがコミカルな動きをしたり。そういう部分が日米の違いでしょうか。

――伺っていると、中村さんのお話は「算出できるかどうか」っていう価値観が透徹してますよね。僕、年俸500万の時に2億作ってきたことがあるんですよ。

中村 それは最高ですね。フロントも営業成績にあわせて何かしらの個人ボーナスつければいい話ですし。皆、それでより一層頑張ると思います。もちろん、他の人にも配分されるようにもしないとですけど。

例えばJ3にいて、それですごく儲かったなら「じゃあ、これからJ2を目指しますか?」という話になるかもしれません。そこで選手に投資しようという話になるのかもしれません。しかし、「J2に上がれば分配金が増えるけど、自分たちの方が稼ぐし、もっと経営基盤を大きくするまではまだJ3でもよくない?」という戦略になるぐらいで私はいいと思います。チームごとに存在意義が異なっても良いのかな、と。地元のためになって、皆が喜んでくれているなら。ポイントはクラブのどのフェーズで勝利や選手への投資に打って出るか、その判断だと思います。先立つものをまずは作り出す。コントロールできない選手パフォーマンスや勝敗で損をすることも理解した上で、それでも経営基盤は揺るがない、と言う所までまずは経営を太くすることができれば理想論ですが、良いですよね。

――それが今、岡田武史さんがFC今治でやろうとしていることですよね。市民が喜んでいればJ1だろうがJ2だろうが関係ないってことですよね

中村 一部の熱心なファンだけが喜ぶためのチーム、ではいけないんです。SS席に6000円も払ってくださるお客様がいるなら、それ以上のものを渡さなきゃいけないですよね。6000円ってかなり大きな額ですよね。

――『1:2.5の法則』というものがあって、例えば「1000円払ったものに対して人は2500円の価値を求める、その価値がないと喜べない」という説があります。その法則に従えば、お客様は6000円払ったなら15000円分の価値を求めるものかもしれません

中村 まさに、その法則に沿っているのがマイナーリーグでよくやっている、チケットにホットドッグ食べ放題券が付いてくるサービスです。ああいうことをやると、経営者は損をするように思われます。でも実は、人間の胃袋ってそこまでホットドッグを食べられないんですね。食べ放題なのはホットドッグのみなので、何本も食べられません。当然、ビールも頼みますし、お得だからといって家族も連れてくる。子どもはホットドッグをそんなに食べられないから「綿菓子ほしい」「お母さん、私こんなもの食べたくない」といって他のものを買うんです。そうすると、結果的にきちんと儲かるんです。だから、いかにお金を落とさせるかの仕組みを作るか、アイディア勝負だと思います。

――それは大満足で帰りますよね。多分、試合勝ったか負けたかなんて覚えてないくらいで帰る

中村 で、試合中にずっと売店に並んでいるから試合は観てないですが、テレビで見逃さないような工夫も必要となります。

――テニスの全米オープンでは一度会場に入ったら、皆最後まで会場から出ないという話も聞きます

中村 開門時間も早いですし、試合後もバーとかは空けてますからね。他のスポーツでも試合後も皆が残って飲食をしていけるようになっています。特に混雑する電車や渋滞が収まるまでそこでゆっくりして行くには良いですよね。

――でも、そこですごいお金が動いているっていうのは聞いたことがあります。さっき中村さんが仰っていたような感じで外でもテレビで見られるし、物販もすごく売り上げていると

中村 そうですね。並んでいるところにテレビがあって見逃さないようになっているのです。最近、色々と若い世代で、Jリーグやスポーツビジネスのコンサルティングの会社を立ち上げていますよね。そうやって、いろいろな方の知見が入ってくるのは非常にいい傾向だと思います。

――お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。中村さんには今後も様々な形でご登場いただければと思っております、今後ともよろしくお願いします。