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前回の記事:​林卓人は、優れているからこそ語られない/ 山野陽嗣( @yoji_yamano)のGK分析『林卓人(サンフレッチェ広島)』

■日本人GK最大の弱点とは?
山野 4つ目の長所は、これが林選手が他のJリーグのGKにはない部分だと思うんですが、ハイボールの強さですね。まず188センチ87キロの大きさってこと自体が日本では貴重です。その上、ハイボールの処理も空間認識の能力が高く、ほとんどミスすることがありません。私はハイボールに関してJリーグの様々なGKを分析しましたが、日本のGKの最大の弱点はハイボールではないかと分析しています。林選手はそのハイボールに対して強いということが、日本では非常に貴重な存在だと思います。世界と戦う上で、ハイボールの弱いGKですとかなりウィークポイントになります。

――確かに、日本で林選手のようにハイボールを安心して任せられるGKは少ないと思います。林選手がハイボールでミスしたのはあまり記憶にないですね。

山野 今シーズンのゴールシーンは全て見ていますが、林選手がハイボールの処理をミスして失点したことは1stステージでは一度もありませんでした。残念ながら2ndステージ開幕の仙台戦、最後の最後にハイボールの処理をミスして失点してしまったのですが、それでも林選手は基本的にハイボール処理のミスが非常に少ない選手だといえます。他の日本代表に入っていない選手でも、例えば曽ヶ端準選手(鹿島)はハイボールだけでも今シーズンだけで2回はミスがありました。いろいろなGKが、ハイボールの処理でミスをしています。

――それは何が原因なのでしょうか?

山野 出たのにボールに触れない、キャッチに行くべきボールでないところでパンチングではなくキャッチを選択してしまうなど、技術以外に判断の部分でのミスが見られます。出て触れないということは空間認識の部分でもありますが、林選手はそういう部分が非常に優れている。さらにフィジカルの強さもあり、Jリーグで相手選手と競った中でも処理できます。西川選手も今シーズンはハイボールの処理のミスからの失点はないですけど、世界と戦う上で西川選手が抱える不安はそういった部分だと考えています。事実、今年のACLの北京国安戦では、ハイボールの処理のミスから失点しています。

――広島時代にも何回かハイボールの処理のミスから失点していましたね。

山野 西川選手は身長も183センチくらいでそんなに高くありません。世界で戦う上では最低でも185センチはほしいです。W杯レベルになると190センチ近くあるのが普通になってくるので、西川選手では他の技術は高いものがありますがハイボールに関しては不安を感じてしまいます。その点、林選手は非常に日本において貴重な存在ですので、相手のタイプによっては日本代表に必要になってくる戦力ではないかなと思います。一人このようなタイプの選手がいたほうが、良い部分も出て来るのではないでしょうか。

ハリルホジッチ監督はJリーグを何百試合も見たと言われてましたが、基本的には生で試合を観ているのは関東近辺だと思うんです。広島まで来て生で観たことはあまりないと思います。あとは、年齢的なバランスも考えているかもしれません。川島選手と林選手が30代、西川選手もまもなく30歳になること考えると、その辺のバランスも見て権田選手を入れているのかなという感じもします。ですが、林選手がこのままのパフォーマンスを続けていけば選ばれる可能性もあると思います。

■世界相手にはGKにも“強さ”が必要!
山野 最後の5つ目はセービングの強さ、シュートストップの強さですね。よく日本で「良いGK」と言われる選手は、上手いGKや反応が良いGKが多いですよね。西川選手は上手かったり速かったりするので、多くの日本人が良いGKと思っていると思いますが、ワールドクラスのシュートを止めるとなった時に、上手さと反応スピードだけでは止められません。何が必要になってくるかと言うと、林選手が持っている「強さ」の部分です。「上手さ」「速さ」「強さ」の3つを持っていないと世界の速く重たいシュートは止められないのです。

――「強さ」というのはフィジカルの強さですか?

山野 フィジカルの強さではありますけど、例えば「強さ」がないGKが速さも重さもあるワールドクラスのシュートに対して、技術も発揮して反応も間に合ったとします。ですが、シュートの重さに耐えられず手が弾かれてゴールに入ってしまう。こういうことはよくあります。ワールドクラスになると、南アフリカW杯のオランダ戦のスナイデルのゴールのような強くて重いシュートを打たれるので、林選手のような強くて重いシュートに対して負けない「強さ」が必要になってきます。日本にそういった選手は少ないです。西川選手や東口選手も上手いタイプのGKですが、林選手は非常に軸がしっかりしていて、「強さ」も兼ね備えたGKだと思います。

――ある選手から聞いた話ですが、現在ジュビロ磐田でプレーするカミンスキー選手が日本に来てすぐ感じたことは「日本人のシュートは、軽すぎて逆に戸惑う」ということだそうです。野球で言えばチェンジアップを投げられているような感覚なんでしょうね。

山野 そのカミンスキー選手が言っていることと逆のことが、日本のGKが世界で戦う時に起こるんですよね。例えば、西川選手は上手くて速いので、Jリーグではシュートを止められます。ですが、世界に出るとJリーグでは経験したことがない速くて重たいシュートが来るんです。そうなった時に、カミンスキー選手がJリーグで戸惑ったようなことの逆のこと、つまり「重さに対応できない」という事態が起きるんですよね。

そういう部分を考えると、今の日本代表で選ばれているGKの中で「強さ」を持っている選手は川島選手しかいないのかなと。そういう部分はW杯などの舞台に立たないと問題にはなりません。西川選手たちがいくらJリーグでのプレーが素晴らしいと言っても、カミンスキー選手が日本に来ないとわからなかったのと同じで、世界に出て始めて「強さ」がないと分かるんですよね。

ザッケローニ、アギーレ、そしてハリルホジッチといった一流の指導者が立て続けに川島選手をレギュラーに選んでいることにはきちんとした理由があります。西川選手らに足りない部分が、彼らにはわかるんですよね。だからこそ、総合力が高い川島選手を使ってきたのかなと思います。ただ川島選手でもボールの強さに負けてゴールインさせてしまうシーンはありますが、総合的に見ると彼を変えづらいのかなと。

――他のGKコーチの方の分析では「川島選手は技術的な部分が低い」といった意見もありました。

山野 川島選手が技術的な部分が高くないとおっしゃる方もいると思いますが、私は西川選手、川島選手、権田選手が一緒に練習している動画など見ると、やはりキャッチングやセービングなどのGKとしての技術的な部分でも川島選手が頭一つ抜けていると感じます。ザッケローニも、監督としてジャンルイジ・ブッフォンなどを見て来た人です。一緒に組んでいるGKコーチの方もボールを蹴れば一発で技術的な部分はわかるので、だからこそ川島選手がずっと重宝されてきてるのではないかなと思います。

よく「川島選手はミスが多い」と言われますが、例えばW杯を戦う上でここのレベルまで達していなければいけないという基準があります。その基準に達していない選手が出たらどうなるか? それは、まぐれで神がかり的なセーブをすることもあるかもしれませんが、基本的にそういうことはあり得ないですよね。特にGKは、能力の誤魔化しが効きません。そういう意味で、川島選手が起用されているのかなと思います。

――林選手の話に戻すと、川島選手が持っている特徴を林選手も持っているということですね。

山野 川島選手と林選手はGKとしてのタイプは異なりますが、シュートストップの強さという部分は川島選手と繋がる部分があると思います。日本には、そこを持っているGKがいないんですよ。川島選手と林選手は強さを持っていますけど、西川選手や権田選手、東口選手はその部分で不安があります。何かの記事で、東口選手が「川島選手との差は何か?」と聞かれて「セービングのパワー」と答えていました。選手も一緒に練習しているとわかるんですよね。ですから、東口選手自身もそこの川島選手との差は感じてると思いますね。

どこがということは細かく書かれてなかったので、単にシュートストップの強さなのかセービングの強さなのか、あるいはシュートに対して飛ぶ筋力の強さなのか、そこはわからないですけど。ただ、東口選手がそういうふうに言っていたということは、「強さ」の部分で川島選手と比べて足りないというのは感じているのではないかなと思いました。

他には実際に生で見たことはないですが、湘南の秋元陽太選手は「強さ」という部分に関しては良いものを持っていると感じました。今シーズンの彼のプレーを見ても、至近距離からの強烈なシュートにも「強さ」で負けず、しっかり止められているシーンがたくさんありました。ただ、彼ぐらいですかね。林選手のようなGKは日本ではほとんどいないので本当に貴重だと思います。日本のGKのウィークポイントを、ストロングポイントとして持っている。林選手はポジショニングも良くて、シュートを受ける前の準備も良い、そしてあの体格なんですよ。ですから、構えられるとシュートコースがほとんどありません。それも非常に重要なポイントです。

――今シーズンはほとんど1対1の場面で決められてない印象があります

山野 簡単に止めているように見えるんですよね。他のGKだったらバタバタしたり、決められているような場面でも何事もなかったかのように止めています。あのポジショニングの良さ、重心も均等にかかっていてどこにでも動ける、プレジャンプもほとんどしない、かつセービングも強くてボールに当たり負けることがない。ですから、簡単に止めているように見えてしまいます。

林選手の課題は、強いて3つ挙げるとスピードの部分とジャンプの飛距離ですかね。ちょっと動きが重たい部分があります。あの体格でもっと速く、もっとセービングで遠くに飛べるようになれば、ワールドクラスのGKになれると思っています。もう一つは、林選手はシュートを受ける前に股が肩幅よりも開くクセがあります。あの脚の長さで股を開くと、例えば至近距離からのシュートが来た場合に林選手の体格だとほとんどシュートコースがないのですが、股だけシュートコースが空くことがあるんですよ。実際、吉田サッカー公園に練習を観に行った時も、どうしても股が空くケースがありましたね。もし、これらを克服したら本当にワールドクラスのGKになれると思います。

<了>

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