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 世界に通用するGKの資質とは、どういうものでしょうか? そしてそれは、Jリーグの選手がどれぐらい持っているものでしょうか? 実際のところ、事実として、ヨーロッパのリーグでGKとしてプレーする代表選手は2015年7月23日時点で川島永嗣選手ただ1人です。日本代表のGK勢は、川島選手を除くといずれも国内でプレーしているのが実情であり、それ自体がまだまだ日本のGKに対する世界的評価が決して高くないことを示しています。
  
 今後、ワールドクラスのGKを輩出していくためにはどういう要素が必要なのでしょうか? 元U20ホンジュラス代表GKコーチである山野陽嗣氏は、氏が日本でも優れたGKの1人と評価する林卓人(サンフレッチェ広島)選手を例にとって5つの要素を挙げています。特に、「強さ」にフォーカスした意見は新鮮なのではないでしょうか。それでは、早速ご覧ください。(収録日:2015年06月26日 取材・文:澤山大輔[アスリートナレッジ編集部])
 
■林卓人が優れる5大ポイント
――日本人のGKを見ていく時、やはり川島永嗣選手と西川周作選手、あるいはFC東京の権田修一選手やG大阪の東口順昭選手が語られることが多いと思います。しかし広島のGK林卓人選手は、他の選手に比べると語られる回数が少ないように思います。

山野陽嗣(以下、山野) 語られることが少ない……それこそが林選手の優れた特徴の一つと言っても良いかもしれません。フォーカスされていない、騒がれていない、派手なプレーが少ない。にも関わらず失点が少ない、危険なシーン自体が少ない、というのはつまり『ポジショニングが非常にいい』ということです。
 
 ここでは、林選手が優れている点について5つの部分を挙げ、論じていきたいと思います。まず1点が、上記のポジショニングです。実際に試合を見ても、ネット上で動画を探しても、林選手が派手な横っ飛びでシュートストップしているシーンは少ないと思います。

――確かに、このインタビューをさせていただくに当たって林選手の動画を見返しましたが、そもそも数が少ないんですよね。

山野 だいたいが正面、もしくは身体の近くでシュートを止めていることが多いのです。これはGK経験がない人、よくわからない人が見ると気づけない長所でしょう。林選手がファインセーブをしているか、それすらも気づかれにくい。ハイライトでも、こういう特質はクローズアップされにくいですね。プロのGKコーチが見ると非常にレベルの高いプレーなのですが、派手に見えない分、一般の方には伝わりにくいのです。
 
――具体的に、林選手のポジショニングの良さが出たシーンについて解説してください。
 
山野 今シーズンのどの試合だったかはちょっと忘れてしまったのですが、右サイドからのクロスをダイレクトで合わせられたものの、問題なく反応できたシーンがあります。このシーンでは、ペナルティエリアのラインすぐ外ぐらいからクロスを上げられたのですが、林選手はまず鉄則としてニアポストの近くに立ち、それからクロスに対してポジションを移動しました。
 
 日本のGKは、このサイドから中へ対応するポジション修正の際に、ポジショニングがずれてしまうことが多いんです。正面からのシュートやドリブルに対しては日本のGKもきちんと反応できるのですが、サイドから中に振られるとずれてしまうことが多いのです。
 
 林選手は、このニアから中への移動が非常に素早く、最適なポジショニングを常に取れているのです。ポジショニングの鉄則というのは、ボールのある位置とゴールポストの間を結ぶ真ん中であり、かつループシュートを打たれない位置に立つものがあります。その場面でも、林選手は身体に近いところでシュートを普通に止めていました。
 
 レベルが林選手より劣るGKになると、そもそもポジショニングを正確に取れていないので、シュートを打たれた時にアクロバティックなセービングになるわけです。それを見てファンの方は「おお、いいセーブじゃないか」となるわけですが、林選手は派手なセービングをする必要がそもそもない、より安全に防いでいる選手というわけなのですね。

――つまり林選手は、「優れているからこそ語られない」逆説的な選手というわけですね。

山野 仰るとおりですね。私が観ると、「これはレベルの高いプレーだな」ってわかるのですが、一般の方が観ると簡単にシュートを止めているように見える。「大したことのないシュートだったんだな」って思うんですよね。プロのGKコーチやプロの監督が観ればわかるようなプレーなのですが、なかなかハイライトでそういう場面が取り上げられることは少ないんだと思います。
 
――そうですね。You Tubeなどで動画があがっているGKは分かりやすいファインセーブが多いGKですよね。
 
山野 Jリーグ中継もよく見ていますが、林選手に限らずGKの良いプレー、悪いプレーはほとんど解説されないのでそこはGKコーチとしては寂しいですね。
 
■他のGKに不足する、林卓人の長所
山野 林選手の良い所を5つ挙げると、上記のように1つ目はポジショニングが良いことです。ただし、ポジショニングが良いというだけでは止められません。例えば先ほどの場面でいうと、サイドからクロスを上げられて中にポジション移動をする。ここで正しいポジションを取れるキーパーは他にもいるんです。ですが、正しいポジションを取っていたとしても、シュートが来る前に構える時に「こっちに来るんじゃないか」と勝手に読んでしまって、右足に重心が傾いてしまって、左に打たれたら反応できないっていうシーンが多いです。
 
 よって、2つ目の長所である「素早いポジション移動と、左右均等に重心を掛けて構えられること」があります。この長所があるため、左右上下どこにシュートを打たれてもスムーズに反応できます。今シーズン見た試合でも、1対1の場面で至近距離からシュートを打たれたシーンがありました。もし林選手が左右どちらかに重心をかけていれば、足が出ないんです。ですが、均等に構えているのでパッと足が出て止められた、そういうシーンがありました。ですから、林選手の良いところはポジショニング+均等な重心のかけかたが挙げられます。Jリーグの他のGKでは、これができない選手が多いのです。
 
 そもそも林選手は、シュートを打たれる時にはキチンと止まれています。Jリーグなどを観ていても、権田選手(FC東京)は割と止まっていないことが多いんです。シュートを打たれる時にもまだ動いてしまっていることが多いです。動いているということは、左右どちらかの足が浮いてるということですので、仮にシュートを打たれた時に足が浮いている方と逆の方向にシュートが来た時には全く反応ができません。林選手は相手がシュートモーションに入った時には正しいポジショニングでキチンと止まれている。かつ、左右均等に重心をかけて止まれているので、どこにシュートが来てもスムーズに反応できています。
 
 3つ目は「シュートを受ける前の動作」です。“プレジャンプ”という、シュートを受ける前に軽くジャンプする動作があるんですけど、これがJリーグのGKは跳び過ぎたり、シュートを打たれる時にタイミングが悪い時に飛んで、足が浮いている時にはボールが目の前に来てる、足がプレジャンプで地面に着いた時にはボールが通過してしまっていることがあります。林選手の場合はプレジャンプをほとんどしない、あるいはプレジャンプしても細かいステップで済ませているのでプレジャンプでシュートに対してタイミングがずれることもないです。
 
――欧州のGKはあまりプレジャンプをしない印象があります。
 
山野 そうですね。デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)とかはもうほとんどプレジャンプをしないです。しても細かく、大きく飛ばないように留めているように感じますね。林選手もそこは意識してるとは思います。
 
――では、プレジャンプはやらない方がいいものなのでしょうか?

山野 個人的には、そうは思っていません。プレジャンプをした方がシュートを止めやすい、というGKもいると思います。それで止められるならしてもいいと思います。ただ、Jリーグを観ているとプレジャンプをしたことによって、あるいはプレジャンプを跳び過ぎたことによって、シュートに対するタイミングがずれるシーンが見受けられます。そうなった時に初めて悪と考えますね。

――プレジャンプ自体が良い悪いではないんですね。プレジャンプはそのGKの癖というか、無意識でやってるものなのでしょうか?
 
山野 そういう選手が多いと思います。プレジャンプせずに止められるのであればいいのですが、それ自体が良い悪いではなくて、タイミングがずれるのであれば悪いということです。するにしても、細かいステップで済ませるようにした方がいいとは思います。林選手は、さきほどのポジショニングやこのプレジャンプや重心のことを意識してプレーしていると思います。これは、なかなか一般の方が観ていても気づきにくい部分ではあります。
 
後編:日本人GK最大の弱点とは○○である/山野陽嗣のGK分析『林卓人(サンフレッチェ広島)』