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日本人3年ぶりの2時間7分台…だが

 日本男子マラソンは長らく低迷期が続いていた。3年前の東京マラソンで藤原新が2時間7分48秒をマークして以来、7分台の壁は誰も破れていなかった。今回の今井の記録は、3年ぶりに2時間7分台の壁を乗り越えただけでなく、日本歴代6位の好タイムだった。
 
 “山の神”と呼ばれたのはもう10年前の話。順天堂大学を卒業してからは、周囲の期待が高すぎたのかしばらくトップレベルで活躍することができなかった。しかし、バルセロナオリンピックで銀メダルを獲得した森下広一監督が率いるトヨタ自動車九州陸上部で、箱根のスターは着実に力をつけていた。
 
 今井の初マラソンは2008年の北海道マラソンで、2時間18分34秒と期待外れの結果だった。しかし、そこからは少しずつではあるが記録を伸ばしていき、昨年2月の別府大分マラソンで初めて2時間10分の壁を破った(2時間9分30秒)。そして10回目マラソンとなる今回の東京マラソンでついに周囲の期待に応えられる結果を出したのだ。
 
 能力はもともと高かった。昨年4月に発足されたマラソンナショナルチームに召集された今井だが、ナショナルチーム内でも今井の力は頭ひとつ抜けていたという。「去年の合宿で今井をリーダーにしたらチームが引き締まった。練習でもピカイチなので、現状レベルの力を出したと思う」(宗猛日本陸連男子中長距離・マラソン部長)。
 
 ナショナルチームでの経験について今井は「ナショナルチームに入れてもらった時は、ベストタイムは下から数えたほうが早かった。その中で戦えなければ世界では戦えない。実力が近い選手と一緒に走れたのは大きかった」
 
 森下監督も「(所属)チーム内では今井がトップで引っ張っているので、切磋琢磨して走れたのは非常に良かった」と語り、ナショナルチームでの経験が今井にとってプラスであったことを強調した。
 
 マラソンナショナルチームは、日本陸連がリオ、東京五輪に向けたマラソン強化の一環で発足したもので、男子12名、女子9名が昨年4月に選ばれた。今井が自ら語ったように、今井の当時の自己ベストは、12人のうち11番目のタイムだった。そんな今井が今回の東京マラソンで現役最速タイムをたたき出したのだから、ナショナルチームとしてのひとつの成果が出たと言えよう。
 
 しかし、そう喜んでばかりはいられない。2002年に高岡寿成氏が日本記録(2時間6分16秒)を出して以来、13年間も日本記録はおろか、2時間6分台も出ていない。その間に世界記録は約2分40秒も更新されており、世界との差がどんどん拡がっている。今回の今井の記録も、優勝したエチオピアのエンデショー・ネゲセの記録(2時間6分00秒)からは1分39秒も遅れてしまっており、日本人トップが7位というのも世界との差を痛感させられる事実だろう。
 
 2014年にマラソンで2時間7分を切った選手は31人いる。2時間8分を切った選手は倍の62人だ。今井の記録はやっと62人の1人になっただけであり、この現状に満足してはいけない(なお、2014年の日本人トップは松村康平(三菱重工長崎)の2時間8分09秒であり、世界ランク70位)。近年では夏場に行われるオリンピックや世界選手権でも、2時間7~8分で走る選手も増え、暑いなかでもコンスタントに記録を出せる安定感が大舞台では求められる。
 
 今年の8月に北京で世界選手権が行われるが、男子マラソン日本勢は2005年のヘルシンキ大会で尾方剛が銅メダルを獲得して以降、4大会連続でメダルを逃している(8位入賞はなんとか継続しているが…)。ベストタイムではケニアやエチオピア勢にかなわないが、夏場のマラソンは何が起こるかわからない。メダルの可能性は十分にあるだろう。世界選手権の代表は3月1日に行われる「びわ湖毎日マラソン」の結果によって決まるが、今回の今井のタイムを上回るようなハイレベルな戦いを期待したい。