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アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

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現在、日本サッカーのユース世代はアジアを勝ち抜くことができず、国際大会の舞台を踏めないでいる。
専門誌や各メディアでもユース世代の育成の問題は度々指摘されており、育成システム根本に懐疑的な声があるのも事実だ。

 
実際に現場での指導者達の声を紐解いていくと、こんな声を聞く。「指導者が自分の指導に酔ってしまっている」「スペイン流のパスサッカーなど指導を型にはめ込みすぎるきらいがある」「ユース世代から戦術的な練習が多く、止める、蹴るといった基本的な技術を磨く練習が少なくなっている」
 
育成に近道はない。国民性や学校教育との親和性もあり、一概に他国のメソッドをそのまま取り入れることも難しく、その国にあった育成方法を探っていく必要性がある。
日本サッカー協会も“長期的な視野での一貫指導”の重要性を謳っている。各世代で大きな全体像・ビジョンを共有し、サッカー界に浸透させる。現段階では日本人としての特徴を活かした育成論を、日々模索しながら構築している最中と言えるだろう。

それでは、現在の日本の指導の現場は南米のアルゼンチン・ブラジルの指導を知る者達にはどのように映ってるのか。その声を紹介してみたい。
 
ボカ・ジュニアーズ日本支部のGMで、スクール運営を行うカルロス・A・山本は、ボカ・ジュニアーズのU-20以下の世代を20年近く指導し、数多のトップ選手を輩出してきたオスカー・A・レゲンハートの指導を見て驚いたという。
 
「一つのイベントが終わると、指導を受けた子供達が明らかに上手くなっているんです。それも、サッカーに明るくない親御さんが見てもはっきりわかるくらいに。特徴的だったのは、子供達のモチベーションを高める表現力の豊かさでした。声のトーンや身振り一つで、緊張感や安心感を伝える術を見て、指導というのはオーケストラの指揮者のような要素も必要だな、と感じましたね」
 
同氏は、日本の子供達がその才能やポテンシャルを開花させることなく、サッカーを離れていった姿を何度も見てきた。アルゼンチンと日本の指導の違いについては、育成の先に何があるのか、何をするのかという明確なビジョンを持っているかの有無という。

「例えばボカ・ジュニアーズのケースで言うと、アルゼンチンが選手の輸出国である背景もあり、最終的には選手を売却してクラブに莫大な移籍金を還元するということも大きな目的で、選手もそれを望んでいる。選手・指導者・家族・クラブが最終的な目的がどこにあるのをより明確にして共有する。そして、目的にあった指導を細かくすみ分けして行っていく。その点についてはアルゼンチンとの差は感じますし、改善すべき部分がまだまだ多い。スクールの魅力としては、クラブでは網羅しきれない細かい部分をカバーできるので、長期的なスパンで注力していきたいと思っています」
 

ブラジルからフットサルサルを日本に持ち込み、ヴィッセル神戸でユース監督やコーチを務めたネルソン松原は、ジュニア世代の育成に大切なことは“考える力”を伸ばすことと指摘する。
「サッカーは判断力に大きく左右されるスポーツ。場面場面によって、適切な選択が求められます。幼少期に技術を磨くことも大切ですが、選手が自分で考えて決断する力、個々の感性を尊重し磨きあげる指導が日本サッカーにはまだ足りないと思います」
 
言われたことはできるが、言われないことはやらない。ブラジルとは大きく異なるメンタリティにネルソン松原は、日本人にあった指導方法は何なのかと、常に頭を悩ませてきた。
 
「世界のサッカーを見ても、昔と比べて組織力では大きな差がなくなっているのが現実だと思います。日本人のストロングポイントは、家電や電子部品の質の高さを見ても分かるように世界に誇れる細かい技術と勤勉性で、サッカーでも同様のことが言えます。発想力や個々の判断力を伸ばすことで、技術が最大限に活きる。幼少期からの指導によって考える力を向上させる。それが今後の育成現場での課題と言えるのではないでしょうか」
 

補足になるが、以前レアル・マドリード、チェルシーといった欧州の名門クラブの指導者に話しを聞くことがあった。その際「日本の子ども達は技術的なレベルは極めて高い。しかし、サッカーを知らない」と口を揃えていた。
 
技術論はもちろん大切である。しかし、技術論や戦術論に重きを置きすぎて、突出した個性をもった選手が生まれにくくなっているのではないか。国内・国外の双方を知る指導者の声を聞き、そんなことを考えてしまう。