athlete knowledge

アスリートとアスリートを応援する人のための知識データベース

「山の神」神野大地は馬場の〝異変〟に気づいていた!?

2 track 0022

 馬場翔大の懸命に走る姿は視聴者の涙を誘ったかもしれない。しかし、馬場のような安定感のある選手がなぜこのような状態に陥ったのか。山上りの5区に向かう選手たちが、同じ悲劇を繰り返さないためにも、原因を追究する必要があるだろう。
 
 駒大は馬場のブレーキで、優勝争いから脱落した。青学大・神野大地と馬場のタイム差は8分11秒。わずか23.2kmで致命的な大差がついた。神野と馬場。勝負をわけたクライマーはどこが違ったのだろうか。
 
 馬場は前回、21秒先行する東洋大・設楽啓太を序盤で詰め寄るなど、格上選手を相手に攻めの姿勢を見せた。今回は「山の神」になる前の同学年選手に46秒差で追われる展開。当然、追いつかれるわけにはいかない、という心理が働く。馬場は前回以上のハイペースで突っ込んだ。
 
 今季、神野と馬場はロードで2回直接対決している。関東インカレ2部のハーフマラソンでは神野が1時間4分23秒で優勝、馬場が1時間4分52秒で3位。全日本大学駅伝8区は神野が区間3位(58分45秒)で、馬場は区間5位(59分47秒)も安全運転で走って、V4のゴールテープを切っている。
 
 フラットの実力では神野の方が少し上だが、馬場は前回5区を歴代10位の1時間19分54秒で走破。今回は「1時間18分30秒」をターゲットにしており、神野に負けるわけはない、と思っていただろう。その〝気持ち〟が走りにも表れていた。
 
 馬場の今回と前回の通過タイムと比べると、箱根湯本(5.0km)は14分54秒で、前回より16秒も速い。大平台(9.6km地点)でも前回より13秒良かったが、10km過ぎに神野にかわされると、巻き返す力は残っていなかった。小涌園前(14.2km地点)の通過は前回よりも6秒遅く、その後はさらにペースダウン。最後はフラフラになり、レース後は病院に搬送された。
 
「馬場は前回好走している分、もっと速く走らなきゃという気持ちもあったでしょうし、今回は追われる立場になったのも重圧になったのかもしれません。直前の状態は悪くなかったですよ。ただ、速いペースで行ったら、序盤は昨年よりも暑くて、結構汗がでたんです。上に行ったら、寒さと汗でカラダが冷えて、低体温症のような感じになって、動かなくなってしまった」(駒大・大八木弘明監督)
 
 一方の神野は、馬場が1時間19分30秒で走ると想定しており、1分差なら逆転できる、と思っていたという。だから、「1時間18分30秒」を目安にしていた計算になる。5kmの通過は15分20秒を予定していたが、14分47秒で通過。「動きが良かった」ことから、ペースを落とすことなく、攻め込んだ。そして、馬場の姿が大きくなってきた。
 
「最初の5kmは日差しが強く、体感的には暖かかったんです。自分はあまり汗をかかないタイプですけど、馬場君はランシャツとアームウォーマーで行っていたにも関わらず、汗を結構かいていました。山に入ったら、気温は2度くらいだったので、汗で一気に冷えて、動かなくなったと思います。追いついたときには、もうペースが上がっていませんでした」(神野)
 
 約860mを駆け上がる5区を実際に走ってみると、最高地点(標高874m)が近づくにつれて気温がグングンと下がっていくのを体感できる。季節などで違いはあるが、標高が100m上がると気温は0.65度下がるといわれている。小田原中継所と最高地点では5.5度ほど違う計算だ。加えて、序盤は日差しが強かったこともあり、体感的にはもっと温度差があったことがうかがえる。しかも、箱根山中は路面が氷結した部分も残っており、「底から冷えて、途中から脚の感覚がなくなってきました」と神野が話すほどの状況だった。

 暑さに強いタイプではない馬場は、序盤を前回以上のハイペースで入ったために、大量の汗をかいた。汗で濡れたランシャツが箱根山中で馬場から体温を奪い、ペースダウンしたことで、さらにカラダが冷えて、筋肉が硬直。終盤は踏ん張りが効かなくなったと予想できる。

 ランシャツにアームウォーマーという姿は、山での寒さを防ぐには、物足りなかった。しかし、序盤の天候を考えると、長袖シャツではさらに大量の汗をかいた可能性もある。気温がどんどん上昇する6区は「着脱」することで体温を調整できるが、5区は逆になる。何か服装での〝アシスト〟があってもいいかもしれない。

 ちなみに神野は「寒くなると思ったので、Tシャツの下に何か着ようか悩んでいた」というが、前回5区を経験して高橋宗司から出走の2時間くらい前に、「これぐらいの気温ならTシャツ1枚で行けるぞ」という連絡が来た。そして、Tシャツ&アームウォーマーというスタイルで飛び出している。

 前回までの20大会で「途中棄権」は12回。そのうち5区での悲劇は3回ある。5区以外は、「疲労骨折」など脚に異常が発生した場合がほとんどだが、5区はいずれも「低体温症」が原因だ。今回の馬場もかなり「危険」な状態だった。
 
 5区の「低体温症」は給水の問題もある。寒さでエネルギーが奪われると、ミネラルウォーターでは回復できないからだ(低血糖が「低体温症」への症状を加速させる)。同じような悲劇を二度と起こさないためにも、何か対策を考える必要があるだろう。箱根駅伝の記録は国際的に評価されるものではない。選手の安全面を最優先して、糖質やナトリウムを含むスポーツドリンクの給水や、(5区に限り)衣類の提供など、独自のローカルルールを適用してもいいと思う。選手たちの〝夢〟は箱根で終わりではないのだから。