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歴代のエースたちが熱戦を繰り広げた「花の2区」

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 数々のドラマを見せてきた箱根駅伝。「花の2区」という言葉はスポーツ好きなら誰でも知っているだろう。鶴見から戸塚までの23.2km(※距離自体は変わらないが、再計測により15年大会からは23.1km)は歴代のエースたちにとっては〝聖域〟ともいえる場所。14km手前から約1.5km続く権太坂、ラスト3kmの上り坂が待ち受ける難コースのなか、エースたちが序盤から高速レースを演じてきた。
 
 しかし、近年の箱根では「花の2区」が色褪せつつある。99年以降にコース変更のあった区間(4、5、6、10区)を除くと、2区だけが日本人選手の〝記録向上〟が20世紀でストップしているのだ。まずは歴代10位までの記録を見てほしい。
 
①1時間6分04秒 MJ・モグス(山梨学大) 85回大会(09年)
②1時間6分46秒 三代直樹(順大) 75回大会(99年)
③1時間6分48秒 渡辺康幸(早大) 71回大会(95年)
④1時間6分52秒 村澤明伸(東海大) 87回大会(11年)
⑤1時間7分04秒 G・ダニエル(日大) 85回大会(09年)
⑥1時間7分09秒 G・ベンジャミン(日大) 87回大会(11年)
⑦1時間7分20秒 S・マヤカ(山梨学大) 71回大会(95年)
⑧1時間7分26秒 出岐雄大(青学大) 88回大会(12年)
⑨1時間7分31秒 藤原正和(中大) 79回大会(03年)
⑩1時間7分34秒 大塚正美(日体大) 59回大会(83年)
 
 00年以降で2区の区間歴代10位以内に食い込んだのは6人。そのうち3人がケニア人留学生だ。村澤明伸(東海大)の快走も追い風のアシストが大きかった。他の区間はというと、区間歴代10位に、00年以降の記録が6~9人を占めている。学生ランナーのレベルは向上しているのに、なぜ2区だけが伸び悩んでいるのか? それは06年大会から5区が20.9kmから23.4kmに延長(15年大会からは23.2km)されたことが大きく影響している。

 5区が最長区間になり、前回の14年大会までの9大会中、5区を制したチームが6回も総合優勝に輝いている。優勝確率は約67%だ。そして、往路に関してはすべてトップでゴールテープを切っており、往路優勝の確率は100%になる。では、2区で区間賞を獲得したチームはどうかというと、前回までの9大会中で総合優勝は0回(往路優勝もなし)。それどころか2回もシード(10位以内)を逃している。箱根の最重要区間は「花の2区」から「山の5区」に完全移行した。
 
 では、エースが5区に行くようになったかというと、そんな単純な話ではない。最重要区間になったとはいえ、標高約860mを駆け上がる特殊区間。上り坂が得意な選手でないと力を発揮するのは難しいからだ。では、エースは何区に起用するべきか。ちょっと5区の歴代記録も見てほしい。
 
①1時間1639秒 柏原竜二(東洋大) 88回大会(12年)
②1時間1805秒 今井正人(順大) 83回大会(07年)
③1時間1812秒 駒野亮太(早大) 84回大会(08年)
④1時間1916秒 設楽啓太(東洋大) 90回大会(14年)
⑤1時間1917秒 服部翔大(日体大) 90回大会(14年)
⑥1時間1930秒 村上和春(駒大) 82回大会(06年)
⑦1時間1934秒 大江啓貴(明大) 88回大会(12年)
⑧1時間1938秒 安西秀幸(駒大) 84回大会(08年)
⑨1時間1952秒 山本修平(早大) 88回大会(12年)
⑩1時間1954秒 馬場翔大(駒大) 90回大会(14年)
 
 区間記録と区間歴代10位の差が1分30秒の2区に対して、5区は3分14秒という大差。5区は2区よりもタイム差がつきやすいために、その差が総合成績にも大きく影響してくるのだ。距離が延びた06年大会からの9レースで1時間20分を切ったのは、上記の10人と、小野裕幸(順大)、三輪晋大朗(東農大)の12人。1時間19分を切っているのは今井、駒野、柏原の3人だけで、1時間17分台に迫ると〝神の領域〟ということになる。実際、何度も快走を演じた今井と柏原は「山の神」と呼ばれた。ちなみに1時間20分台も17人しかいない。
 
 前後を走る選手とのパワーバランスで違ってくるが、1時間19~20分台で走れそうな選手がいる大学は5区での順位アップが見込めることになる。そういうチームは4区終了時までに無理して稼ぐ必要はない。反対に5区の選手が1時間21分以上かかりそうな大学は、5区での順位ダウンを覚悟しないといけない。
 
 箱根駅伝、最大の〝山場〟が文字通り5区に移ったことで、2区の戦い方も大きく変化した。過去、2区で1時間6分台に突入したのは4人だけで、1時間7分台は13人。2区でいえば、1時間6分台が〝神の領域〟といえる。2区の1時間7分台が5区の1時間19分台、2区の1時間8分台が5区の1時間20分台くらいの価値か。1時間7~8分台で走れるエースがいると、2区での順位アップが見込めるが、そういう選手がいないチームは2区を「つなぎ区間」としてとらえている。無理に勝負をするのではなく、設定タイム通りにレースを進めて、手堅くまとめるのだ。その場合は3区にエース級を配置して、レースを立て直す戦略をとるチームが多い。
 
 佐藤悠基(東海大)、竹澤健介(早大)というスピードランナーも3区が主戦場だった。2区は距離も長く、上り坂もあるためにトラック種目の延長というわけにはいかない。難コースに対応するためのトレーニングが必要で、トラックにこだわってきた一部のエースたちは2区を回避するようになった。2区のレベルが高騰しないのはそんな理由もある。
 
 近年は盛り上がりに欠ける「花の2区」だったが、15年大会は村山謙太(駒大)、村山紘太(城西大)、服部勇馬(東洋大)、高田康暉(早大)、大六野秀畝(明大)、一色恭志(青学大)、市田孝(大東大)、エノック・オムワンバ(山梨学大)など各大学のエースたちがエントリー。久々に〝神の領域〟での名勝負を期待したいと思う。